なぜ女子W杯準々決勝でなでしこはスウェーデンに1-2惜敗したのか…次なる戦いのパリ五輪に向けての課題は?
チームの心臓を担うボランチの長谷川唯(26、マンチェスター・シティ)と長野が指示を出し、チーム全体を前に押し上げる対抗策もあった。しかし、前出の鈴木氏は「プレーしている選手は、なかなか冷静に試合全体を見わたせない」とこう続ける。
「負ければ終わりの決勝トーナメントで、特に準々決勝レベルの戦いになれば、先に失点をしない、という戦い方がすごく重要になる。それでも慎重さが消極さになってしまうと、前半のように試合の流れを持って来られなくなる。ベンチの方が間違いなく冷静に全体を見られるという点では、監督の指示を含めたベンチワークで流れを変えてほしかった」
後半15分過ぎからなでしこが主導権を握り始めた。理由は2つ。リードを2点に広げたスウェーデンがリスクを冒さなくなったのと、試合間隔がなでしこより1日短い中4日のスウェーデンの運動量そのものが落ちたからだ。ましてやスウェーデンは大会3連覇を狙った女王アメリカと延長戦を含めて120分間戦い、PK戦の末に撃破して勝ち上がってきた。
しかし、ここでなでしこの悪癖が顔をのぞかせる。鈴木氏が言う。
「終盤は日本が完全に包囲して、はね返されても拾って再び攻撃する流れになった。しかし、日本には1対1の勝負に挑む選手というか、挑む回数が少なかった。守りを固められると、綺麗なパスワーク一発で裏を取る攻撃は難しい。こうした状況で何が必要かと言えば、個の力で仕掛けるプレー。対戦相手が最も嫌がる攻撃を選択すべき場面で、どうしても味方へのパスを優先させる。ここが点を取りに行く場面で、いま現在の日本に欠けていた部分だった」
象徴的な場面が試合終了直前に訪れた。
左サイドから中央へ侵入した遠藤が、FW浜野まいか(19、ハンマルビー)とのワンツーで今度は縦へ突破。直後に正面が空いたが、遠藤が選択したのはシュートではなく、右前方にいたMF清家貴子(27、三菱重工浦和)へのスルーパスだった。
左利きの遠藤が右足でボールを持っていたのも関係していたかもしれない。しかし、清家へのスルーパスは簡単にカットされ、こぼれ球を拾ったFW植木理子(24、日テレ・東京V)のシュートも力なく転がり、スウェーデンの守護神ゼチラ・ムショビッチ(27、チェルシー)にキャッチされた。次の瞬間、遠藤はしまったとばかりに頭を抱えている。
遠藤個人を責めるわけではない、と前置きした上で鈴木氏が続ける。
「シュートを打てるのに味方へのパスを選択するのが、今回の日本に限らず、男子も含めた日本サッカーの特徴的な部分と言っていい。そのプレーの後に何が起こるかという確率で言えば、パスよりもシュートの後の方がいろいろな意味で相手が嫌がる場面が生まれやすいし、相手ゴール前に詰めていれば何かが起こると味方にも思わせる。何よりも絶対にゴールが欲しい場面では、シュートを最優先させなければいけない。これは鉄則と言っていい」