なぜ阪神はマジック「29」を点灯させることができたのか…「広島と一騎打ちよ」と覚悟していた岡田監督の嬉しい誤算
「もう広島と一騎打ちやな」
岡田監督が、そう語ったのが、怒涛の10連勝の序盤戦の8月5日、横浜DeNAに連勝した夜だった。その時点で横浜DeNAとは8ゲーム差がつき、2位の広島とは1.5ゲーム差だった。
開幕前に岡田監督は、「評論家なら横浜DeNAが優勝」と公言していた。横浜DeNAは、タレント揃いの強力打線に加え、WBCの決勝で先発した今永、サイヤング賞のバウアーまでを擁していた。その横浜DeNAに今季のハマスタで1勝もできず、昨年からの連敗は「13」までのびていたが、結果、3タテを食らわせてV争いから脱落させ、ターゲットを広島に置き替えていた。
「ちょうどお盆にマツダで3連戦か。ほんま楽しみで仕方がないわ」
岡田監督は、夏のロードの日程を見て前回の阪神監督時にチームの主力だった新井監督との優勝争いを心待ちにしていた。そこがV争いへ向けての“真夏の山場”だと見据えていたのである。
決してチームの戦力は整っているとは言えなかった。大竹、村上の新星は出てきたが、エースとして期待された青柳に安定感はなく、ストッパーに予定していた湯浅が脇腹を痛め今季絶望。この時点では“広島キラー”の大竹も熱発で一時期1軍を離れていた。ノイジー、佐藤の2人は、打率が2割の前半をウロウロしている状況でクリーンナップの役目を果たせていなかった。
それでも岡田監督は広島との“一騎打ち”に“勝つ”手ごたえがあった。
秋季キャンプから徹底して鍛えてきた内外野の守備とボール球に手を出さずに四球でつなぐ打線の粘り。“実りの秋”を見据えて撒いてきた種が少しずつ芽を出していた。打者では、3番で起用している森下、バッティングにセンスを感じさせる育成出身の4年目、小野寺、投手陣ではブルペン起用で存在感を示す桐敷の台頭、ピンチにこそ力を発揮する島本、そして先発転向で通用しはじめたビーズリー…。
加えて10年ぶりに現場復帰した岡田監督は、選手個々の力量を把握しブランクがあった勝負勘を完全に取り戻していた。ベンチ同志の駆け引きには“絶対に負けない”との自信があった。各自がやるべきをやる「普通の野球」さえ貫徹できれば大負けはしない。新井監督との対決には、“なんでも好きなことをやってこい。全部受けてやる”との余裕があり、優勝を争う緊張感のある“一騎打ち”が、「楽しみで仕方がなかった」のである。
だが、阪神が10連勝と突っ走っている間に広島は引き分けを挟んで6連敗と失速。ゲーム差は8に広がり、直接対決は、緊迫した首位攻防戦ではなくなり虎がVマジック点灯を狙う戦いへと変わってしまった。この早すぎる展開は岡田監督にとってみれば、想定外の嬉しい誤算だったのかもしれない。
スポーツ各紙の報道によると、岡田監督は「どこと優勝争いしてるの? わからんけど、俺らはひとつずつ勝っていくだけやんか。別に優勝争いとかしてないで」と語ったという。
この先のVロードの敵は我にありーー。
ここまでは、先を見た“我慢采配”を続けてきたが、ついに“アレ”を見据えた“V采配”へとシフトした。前日のゲームの大事な局面で守備のミスを犯し、8回無死二、三塁で、広島が一、二塁を深く下げる守備隊形を取っているにもかかわらず、5番打者として最低限の仕事である内野ゴロさえ打てずに三振した佐藤をスタメンから外した。
「自分から崩れていく選手は出れんわ。勝っているチームではな」
岡田監督が求める「普通の野球」のできない選手は出番がなくなる。
原口は、連勝がストップしたチームの空気を「悲壮感はなく、いつも通りやるべきことをやって、今日もひとつ(勝ちを)取ろうという、いい雰囲気でした」と表現していた。岡田監督が語り続ける「普通の野球」の重要性がチームの価値観として浸透している。そのチーム哲学と、それを守れない選手が試合に出られなくなるサバイバルの厳しさが“アレ”に向けて阪神をより盤石に強くしていく。
原口がナインの気持ちを代弁してこう言う。
「選手はなんとか目の前の1勝をコツコツとできることを積み重ねていくだけ。あまり(マジックは)気にせず、目の前の1勝をしっかりとファンの皆さんと戦いたいと思います」
マジック減らしへの初戦となる今日17日の先発はビーズリーだ。
(文責・ROSNPO編集部)