今明かす秘話…阪神の岡田監督が愛してやまない高校野球…あの新型コロナ禍の夏に甲子園球児の救済に動いた

　第105回全国高校野球選手権の決勝がいよいよ明日23日甲子園球場で連覇を狙う仙台育英と107年ぶり優勝を目指す慶応の間で行われる。大の高校野球ファンで知られるのが、Vマジック「26」を点灯させている阪神の岡田彰布監督（65）だ。自らは北陽高（現・関大北陽高）の1年夏に1度出場しただけ。2年春には出場が確実視されていたセンバツをチームの不祥事で辞退した苦い思い出もある。蔓延した新型コロナの影響でセンバツ、夏の大会と続けて中止になった2020年。センバツ出場の決まっていた32校を夏の甲子園に招待して交流試合が行われたことを覚えているだろうか。実は、その実現のために水面下で動いたのが岡田監督だった。

　北陽高（現・関大北陽）1年の夏に甲子園出場。ポジションはレフトだった

　8月。虎の指揮官の1日は忙しい。
「ストレスなんかないけどな。目は早よ、覚めるでえ」
　ナイター後の前日の就寝が、午前0時を回ることは常だが、朝6時には目が覚める。データの確認、ネット配信でのファーム試合のチェックなど試合前の練習でグラウンドに出るまでに監督の仕事は山積みだが、合間を見て高校野球のテレビ観戦を欠かさない。もちろんドラフト候補のチェックもあるのだが、とにかく岡田監督は、高校野球が大好きなのだ。
　抜群の記憶力。何年の大会に、どことどこが対戦して、どんな名勝負があり、何年の大会には、どんな怪物が出て、どんなプレーをしたかまで、こと細かにインプットされており、一度、熱弁が始まると止まらない。しかも、岡田監督の独自“人脈”でゲットした当時の裏話まで加わる。誰よりも詳しくて面白い。
　岡田監督自身が大阪の“古豪”北陽高で甲子園の土を踏んだのは1年夏の一度だけ。大阪大会の決勝の相手は、岡田監督が当時「オールジャパン」と呼んでいた最強のPL学園だった。「7番・レフト」で先発出場した岡田監督が2打点をあげて3－2で振りきった。甲子園初戦となる2回戦の秋田戦ではノーヒットだったが、1ー0で突破。3回戦の高鍋戦では「2番・レフト」で出場し3打数2安打。エースは、のちに近鉄にドラフト2位指名された有田二三男でノーヒットノーランを達成している。だが、準々決勝で今治西に敗れた。
　悔しい思いを味わったのが、2年春のセンバツだ。岡田監督は投手を任され秋の近畿大会でベスト4に食い込み、センバツ確定と見られていたが、暴力事件が表沙汰になって無念の辞退。岡田監督が、今でも師と仰ぐ松岡英孝監督は、鉄拳制裁など一切行わない人だったが、冷酷非情で温情が1ミリもないことから生徒が「ゼロ」と呼んでいた某鬼コーチが、ある選手を殴って救急車を呼ぶ騒ぎになった。たまたま、その警察無線を聞いてきた記者が野球に詳しく取材に走り、高野連に問い合わせたことで“大人の事情”で選考会の直前でチームは辞退。岡田監督は、それをNHKの速報テロップで知ったという。
「そりゃビックリしたわ。でも、2年の夏、3年春、3年夏と、まだ3回、甲子園出場のチャンスがあったからな」
　しかし、岡田監督は、その3度の甲子園出場機会を逃す。最後の夏は、大阪大会の決勝で興国に0－2で敗れた。岡田監督は「4番・投手」の二刀流。9回を完投したが、興国のエースの清水信英を打ち崩すことができなかった。
　だが、岡田監督の高校野球の夏は、これで終わりではなかった。
　8月27日に日生球場で甲子園出場組で結成された全日本高校選抜チームと岡田監督らが選ばれた全大阪高校選抜チームが、ハワイ、米国遠征を行う全日本選抜の壮行試合として対戦したのである。岡田監督は「4番・投手」。全日本選抜の4番は、当時東海大相模2年だった現巨人監督の原辰徳で、ナイターで開催された試合は、日生を本拠地としていた近鉄の試合よりも観客が入ったという。
　岡田監督は1回に先制タイムリーを放ち、原監督をノーヒットに封じたが、6回に3－3の同点に追いついたところで、ある大会役員が全大阪選抜のベンチを訪れて全日本選抜への“忖度”を打診してきたという。今なら大問題だが、審判の判定も露骨に全日本選抜有利に変わり、結局、全日本選抜が9－3で快勝することになった。それほど大阪の高校野球のレベルは高かったのである。