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慶応が107年ぶりの夏の甲子園V(写真・日刊スポーツ/アフロ)
慶応が107年ぶりの夏の甲子園V(写真・日刊スポーツ/アフロ)

なぜ慶応は常識を覆す「エンジョイベースボール」で107年ぶりの日本一を手にできたのか…「プレッシャーなき自己表現&目標追及の力」

 慶応は2回にも一死二塁から丸田がつまりながらもライトへタイムリーを運んで追加点。仙台育英も食い下がり3-2の1点差で迎えた5回に慶応が打者一巡の自慢の集中打を見せて勝負を決める。
 この回から継投に出た、これまたドラフト上位候補の高橋煌稀に襲いかかり、二死一塁から7番打者の福井直睦がレフト線にタイムリー二塁打。主将の大村昊澄が、この日、3つ目となる四球を選んでつなぐと、森林監督は、好投の左腕、鈴木の打席で迷わず伝令役を任していた安達英輝を代打に送った。安達は144キロのストレートを振り切った。レフトへふらっと上がった打球に鈴木拓斗がダイビングキャッチを試みたが届かなかった。これで5-2。さらに二死二、三塁と続くチャンスにまた仙台育英に痛恨のエラーが。丸田が外野へ打ち上げた打球に対してレフトの鈴木が、完全に捕球体勢に入っていたが、慶応応援団の大声援に声の連携がかき消されて、横から打球を捕りにきたセンターの橋本航河と接触。なんと橋本がまさかの落球をして2者が生還した。
 5回からは、抜群のコントロールを誇るエースの小宅が内角を徹底して意識させるインサイドワークで、9回までスコアボールにゼロを並べさせ、仙台育英の反撃を封じ込んだ。9回には、PL学園時代に全国制覇を果たした元西武、巨人、オリックスの清原和博氏の次男、勝児が代打で登場し四球を選んだ。1年時に留年している勝児にとって最後の夏。スタンドのボルテージは最高潮に達していた。
 2015年から指揮をとる森林監督は、優勝スピーチの最後に、こんなメッセージを発信した。
「慶応が優勝することで高校野球の新たな可能性とか多様性とか、そういったものを何か示せればいいなと思い、日本一を目指して常識を覆すという目的に向けてがんばってきた。今回の優勝から新しいものが生まれてくるというのであれば、本当にうれしく思いますし、うちの優勝だけではなくて高校野球の新しい姿につながるような勝利だったんじゃないかな」
 議論を呼んだ“脱丸刈り”の長髪OKのヘア、全体練習を2時間で切り上げて、自主トレをメインに据える異例の練習方法。試合中に、どんなピンチでもニコやかに笑って野球を楽しむプレースタイル。しかも学業優先で107人の大所帯の中にスポーツ推薦の生徒もいるが、内申書成績が45点中38点以上でなければ合格できない。
 主将の大村も「ずっと日本一とか高校野球の常識を変えたいとか、さんざん大きなことを言ってきて、笑われることや、いろいろ言われることもあった。それに耐えて、そういう人を見返して自分たちが絶対に日本一になってやろうという思いでやってきた。そういう辛い思いが全部、報われた」と言った。
 野球部の部訓には「日本一になろう。日本一になりたいと思わないものはなれない」「Enjoy Baseball(スポーツは明るいもの、楽しいもの)」とある。さらに野球部の「心得」も、細かく定められており、そこに「日本一を目標とし、古い体質の日本の高校野球に新風を吹き込む」との目標が書かれている。
 甲子園出場経験のあるプロ野球の元タイトルホルダーの某ベテラン評論家は、エンジョイベースボールの神髄をこう分析した。
「プレッシャーなき自己表現、目標追及の力」

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