「人生はうまくいかないもの」なぜ那須川天心は転向2戦目もKO決着できなかったのか…メキシコ国内王者相手に2度ダウンを奪いパーフェクト判定勝利…本田会長は熟成育成プランを明かす
プロボクシングのW世界戦と、那須川天心(25、帝拳)の転向2戦目が18日、有明アリーナで行われ、メインではWBAスーパー、WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(31、BMB)がWBC同級1位、WBA同級4位のヘッキー・ブドラー(35、南アフリカ)に9回TKO勝利、セミファイナルには、天心が抜擢され、メキシコ・バンタム級王者のルイス・グスマン(27)とスーパーバンタム級8回戦で対戦し、2度のダウンを奪い3者がフルマークの判定勝ち、WBO世界スーパーフライ級王者の中谷潤人(25、M・T)は同級6位のアルヒ・コルテス(28、メキシコ)から3度のダウンを奪い、3-0判定でV1に成功した。
最終ラウンドに幻のダウン
最終ラウンド。天心は右構えにスイッチしながら渾身のパンチを振り回した。
実は、「4ラウンドにめちゃくちゃ稲妻が走った」と、試合途中に左拳を痛めていたための苦心の措置だった。残り10秒を知らせる拍子が鳴った直後に、左ストレートがかすり、メキシコ王者は尻もちをついた。
「あれ当たりましたよね?」
ダウンと判断してもおかしくなかったが、スリップとされ、すぐにゴング。
「あれで倒して終わっていれば、いいなってあったんですが、なかなかうまくいかない」
残り1秒での奇跡のKO勝利は幻と終わり、ジャッジの3者が「80-70」を付けるパーフェクト採点で判定勝利したが、天心は苦笑いを浮かべていた。
直後のリング内でのインタビュー。
「ダウンは取れて、進化している姿はみせられたと思うが、最後の最後がうまくいかないというか、人生うまくいかないもんだな」
まずは反省が口をついた。
4月のボクシングデビュー戦では、日本バンタム級2位の与那覇勇気(真正)からダウンを奪いながらもKO決着とはならず、今回のテーマを「殴りにいく」「今回は倒す」としていただけに有言実行を果たせず悔しさがにじむ。
「これに懸けてずっとやってきた。成長する姿、僕のボクシングの本気をみんなに見せられたとは思う。皆さん、どうですか、よかったですか?」
そう問いかけると、有明アリーナを埋めた1万1000人のファンは、天心の健闘を称えて、KO決着できなかった無念を慰めるかのように熱い拍手を送った。
オープニングラウンドは衝撃的だった。ガードを固めたメキシコ王者がアクションを起こした刹那、天心の左ストレートがカウンターとなって炸裂、ダウンを奪ったのだ。だが、意思を断ち切るまでのダメージを与えることはできない。逆に警戒心を強めさせてしまい、よりガードが強固になった。それが天心を“迷宮”へと導くことになってしまった。
それでも、本田明彦会長が「60年やってきてあんな選手は見たことがない」と絶賛する非凡なセンスと驚異的な成長度でメキシコ国内王者を圧倒した。
高速のジャブに加え、サウスポー特有の出鼻に叩き込む右フックだけでなく、転向2戦目とは思えぬ左のボディカウンターまで放つ。サイドステップを華麗に踏み、右ジャブから体を切り替えての角度のある左フック。とにかく自由自在。常に距離を把握し、足がよく動き、パンチを打つ際のシフトが安定していた。
6ラウンドには意識的に強度を強めた。ワンツーの連打から右ジャブをヒットさせて左のボディアッパーをめりこませた。グスマンは顔をゆがめて初めてロープへと下がる。そこにラッシュ。電光石火の右のショートアッパーから右フックのコンビネーションで再び追いつめ、メキシコ人は、ほぼグロッキー気味だったが、倒れない。ラウンド終了後、キックスタイルでインターバルで椅子に座らない天心は、本田会長に「どうやったら決まりますかね?」と“SOS”を発信した。