なぜ日本代表は“前哨戦”では敗れていたサモア撃破に成功したのか…8強進出へアルゼンチン戦勝利の条件とは?
キックもうまく使った。相手の重量級のFW陣を背走させ、サモア代表のエネルギーを削った。
効いたのはロマノ レメキ ラヴァ。フルバックで先発のムードメーカーだ。チームの最後尾で相手のキックを捕るや、鋭く駆け上がって高く蹴り上げた。弾道を追い、ルーズボールを拾って走ったり、捕球役に的確なタックルを放ったり。意図を語った。
「(サモア代表は自分たちでキックを)蹴った後、みんな歩いている。ここで自分がボールを捕ってどんどん蹴り返せば、相手FWのメンタルは下がる。我慢して、蹴って、プレッシャーをかければ、フィフティ・フィフティ(どちらに渡るかがわからない)のボールはこっちに入ってくる」
蹴るだけではなかった。日本代表が前半に挙げた2つのトライは、中盤のセットプレーから大胆にパスをつないで奪ったものだ。スタンドオフの松田力也は言う。
「スペースがあれば蹴って、相手の大きなFWを走らせたいというプランでやってはいました。ただ、数的優位があったり、相手が流してきたりする(防御で前に出ない)時は、強気にアタックするのがジャパンのラグビーです」
1勝5敗に終わった直前の強化試合では落球のミスを重ねていた。大会本番に入ってボールが繋がり出した傾向について、松田はこう応じた。
「僕自身はずっと(皆で)同じ絵を見られれば絶対にいいアタックができると思っていました。それはこれまでと変わらないですが、より完成度は上がってきています」
ただし、苦しみもした。
前半36分からの10分間は、フッカーの堀江翔太がイエローカードを受けたため14人での戦いを余儀なくされた。
その4分前には、サモア代表もスクラムハーフのジョナサン・タウマテイネが、一時退場処分を受けていた。そのため堀江の不在時は、過半数が14人対14人と数的には同数だった。日本代表のスクラムハーフである齋藤直人曰く「逆に(サモア代表)がやることを明確にしていた」。サモア代表の縦突進とオフロードの応酬、さらにモールの合わせ技で、前半33分にトライを許した。
後半7分には、相手ウイングのベン・ラムが危険なプレーで退場。その後の日本代表はずっと数的優位を保てたため、快勝ペースに突入するのを期待されただろう。ところが、実際には、最後の最後まで接戦を強いられた。同25分には、接点周りで相手のラインブレイクを許してトライを奪われた。
松田はうなずく。
「どんな点数になっても安心はしていなかったです。自分たちが少しでもソフトな部分を見せると相手は復活してくるとわかっていました。ただ、そういう時間帯が生まれてしまったのは反省です。勝ったけどいい反省がもらえました」
そこまで苦しんでも負けなかった。苦境に立たされるなか、チーム内で定めた「侍タイム」というフレーズを言い合って結束を保った。組織に備わる無形の結束力こそが、苦戦を敗戦にしなかった最大の要因と言えよう。
「きつい時間帯があるのは、準備(戦前)の段階でわかっていた」という姫野は、試合開始直前、仲間にこう語りかけていた。
「僕たちはここまで、ひとりではなく皆で来たんだ。自分たちには強い絆がある。恐れなくていい」
4年に1度のW杯では、結果が全てだ。