なぜ森保監督は“暴挙”を犯した北朝鮮との戦いに“警戒令”を発令したのか…「ラフプレーは我々にコントロールできない」
「国交のないDPRK(北朝鮮)での試合となったため、外務省や通産省等、関係省庁に多大なご協力をいただきながら準備を進めたが、準備段階から入国まで難問が多く、非常に難しいチーム運営となった。査証取得のために、入国者全員(50名)が指定された日時に在北京DPRK大使館へ出向き、取得に1時間弱を要した。
また、平壌空港ではパスポートチェックに2時間、荷物検査に2時間、その後、すべての荷物を受け取るまで1時間かかり、チームが完全に入国するまでに約5時間を要した。そのため、選手は空港から直接スタジアムへ向かい公式練習を行うことになった」
保安を理由に携帯電話の持ち込みは禁止され、経由地の北京市内のホテルに預けてきた。パソコンの持ち込みも厳しく制限され、選手たちが持ち込んだインスタントラーメンやガムなども入国時にすべて没収された。万が一のトラブルを防ぐために、選手たちは日課にしていた散歩だけでなく、政治絡みの会話などもすべて自粛した。
宿泊先となった外国人観光客専用の高級ホテルには、フロアごとに数人の守衛が配置された。壁一面が鏡張りの部屋で、24時間体制で監視されるような不気味さに耐えられなかったのか。シングルルームがあてがわれながらも、2人で寝た選手もいたほどだ。
試合でも苦しめられた。試合会場の金日成競技場は満員の約5万人で埋まり、重低音の大ブーイングが試合前の国歌もかき消した。前出の事業報告書はこう続けている。
「試合では隣の人の声が聞こえないほどの統率された応援とブーイングに圧倒され、選手の当たりも激しく、完全に相手ペースの試合となった。また、慣れない人工芝にも苦戦し、ペースをつかめないまま50分(後半5分)に失点して敗れた」
来年3月は21日に日本のホームでアジア2次予選の第3戦が、26日にはアウェイの北朝鮮で同第4戦が続けて組まれている。前回は日本がアジア最終予選進出を決めた直後の“消化試合”だったが、今回は北朝鮮も突破がかかった状況で対峙する可能性もある。
北朝鮮が日本戦を平壌で開催するかどうかは、朝鮮民主主義人民共和国サッカー協会(DPRKFA)の判断に委ねられる。ただ、途中棄権した前回のアジア2次予選では、2-0で勝利したレバノン代表戦、0-0で引き分けた韓国代表戦を平壌で開催している。サッカーは同国内でも人気競技だけに、今回も平壌での開催を申請してくる可能性は高い。
韓国のサッカー専門誌『Best Eleven』は、北朝鮮がアジア大会で起こした問題やJFAが提出した意見書を受けて、2次予選のホーム開催権に影響が及ぶ可能性があると報じた。ただ、現状ではまだ何も決まっていない。もし平壌での開催が決まれば、過去に2分け2敗と未勝利が続く平壌でのトラウマも不安要素のひとつとしてクローズアップされてくる。
(文責・藤江直人/スポーツライター)