なぜ亀田和毅はIBF世界フェザー級2位決定戦で実力は下の南アボクサーにまさかの僅差判定負けを喫して「井上(尚弥)チャンピオンの名前を出して申し訳ない」と謝罪したのか
10ラウンドから、父や兄が大騒ぎしたのは、この試合には、勝つだけでなく、インパクトのあるKO勝利が求められていることがわかっていたからだ。
まさか判定負けになるとは誰一人考えていなかった。筆者の採点は、116-112で和毅。「10-10」の判断の難しいラウンドは、ホームのボクサーに傾くものだと踏んでいた。そこで明確な優劣を付けることができなかった実力不足を悔いるしかないだろう。金平桂一郎会長は「和毅はセンスが抜群なのでスピード勝負になると動きに反応してしまう。だから序盤に終盤戦のような展開を作れなかった」と振り返ったが、予想以上のスピードとテクニックはあったが、元2階級制覇王者の和毅の相手としては、“格下”の南アフリカ人を相手に僅差の勝負をしてしまったこと自体が、勝ち負け以前に問題だった。
試合後の会見に和毅はリングを降りたその足ですぐにやってきた。
最初に大会関係者、ファンに感謝の意を伝え、潔く負けを受け入れた。
「ちょっとずつペースを上げて中盤から後半を取っていったと思ったんですけど判定が出たことに自分は何も言うことはないんで。自分の負けです」
採点結果について再度、聞かれても「自分はボクサーで、レフェリー、ジャッジのプロじゃないんで、そこは何とも言えない。自分は勝ったと思っても、ジャッジの方々が、そう採点したのであればちゃんとボクサーとして認めます」と文句のひとつも言わなかった。
9ラウンドから見せたプレスを序盤からかけていれば結果は違っただろう。
なぜそれをできなかったのか?と問うと、こう返した。
「終わったことは仕方ない、そうしてたら…のたらの話をしても、あれなんで。毎試合の課題。どっちでもいいラウンドのところ(を明確に取れなかったこと)が課題」
この試合には重要な意味があった。
フェザー級の王座挑戦に向けて、勝って2位のランキングを手に入れるだけでなく、最終目標としていた“モンスター”井上尚弥との試合を実現するために「井上―亀田」の気運を高め、世論を動かすようなインパクトを残す必要があったのだ。
前日計量後には、筆者の直撃取材に「井上チャンピオンは、ああいう勝ち方(鮮烈なKO勝利)を毎回、毎回している。こっちも、それなりの試合で勝つだけでなく、圧倒的な勝ち方をしないと、ファンも(井上と)やれとはならない。それは重々わかっている。1試合、1試合、いい内容で勝っていかないと、そういう声は出ない。だから、まずは明日の試合が大事になる」と悲壮な覚悟を明かしていた。
だが、和毅よりも下位の世界ランカーを仕留めきることができずおまけに敗戦。そのことに触れると、和毅は、「この場を借りて言いたい」と前置きした上で、自らこう切り出した。
「試合前から圧倒的な勝ち方をして、みんなが望んでいる井上チャンピオンとの試合(につなげること)がモチベーションだったんですが、今回、こういう風に負けて、強いところをアピールできなかったんで(井上尚弥の)名前を出したことを申し訳ないなと思います」
素直にそう謝罪した。