なぜラグビーW杯で日本はアルゼンチンに27-39で敗れて8強進出を逃したのか…4年後に向けての課題と収穫
後半26分には、敵陣ゴール前左でのペナルティーキックの地点から速攻。接点からの素早いリサイクルとおとりの動きの合わせ技で、右端へ空洞を作った。最後は、途中出場していたウイングのジョネ・ナイカブラがグラウンディングした。その後のコンバージョンを決めた松田は、攻め切るビジョンに胸を張った。
「アルゼンチン代表は世界でもディフェンスが強い。ただスピードとモメンタム(勢い)があれば、僕たちはスペースにボールを運べる自信もあった。それをいつ出すかという判断を、9、10番(司令塔団)で同じ絵を見ようとしていました」
負けた悔しさと、力を出し切った充実感がないまぜになった日本代表の面々は、11日までに帰国する。
これで約8年も続いたジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制は終わる。
ファンが気になる次期ヘッドコーチについては、「まだ決まってない」と土田雅人会長。あえて公募という過程を経て、選任するつもりで、委託先のマーケティング会社のリサーチの末に5名程度の候補者をリストアップ済み。そのなかに、土田と親交の深いエディー・ジョーンズ現オーストラリア代表ヘッドコーチがいるかについて、土田は明言を避けた。合理的な判断と説明が求められる。
そもそも、誰が指揮官になるにせよ、2027年のオーストラリア大会への道のりは簡単ではない。
2019年の日本大会前にあった、国際リーグのスーパーラグビーへの日本チーム(サンウルブズ)参加というオプションがなくなってはや4年。今回は直前合宿での猛練習強化試合での試行錯誤で一定のレベルを担保できたものの、それはジョセフ組のプランニングが巧みだったに過ぎない。選手が継続的に世界へ挑める仕組み作りは、指導者選び以上の検討課題と言える。
すでに決まっているニュージーランド協会やオーストラリア協会との協定締結、国内リーグワンで実施されるかもしれないクロスボーダーマッチ(海外クラブとの交流戦)が、スーパーラグビーに参加できないことを補って余りある効果をもたらせるのか。それは現時点では未知数だ。ジョセフは、置き土産のように言う。
「我々はクオリティのあるチームだけど、クオリティのある選手を育てる場がなかなかないのが現状です。どんなラグビー選手でも、厳しい試合をしなければいけない」
いますぐにできることは、今回のバトルを体験した選手が収穫、課題を言語化し、次につなげることだ。
稲垣は「僕は(日本代表として)残すべきことが何かを言える立場ではないですが」としつつ、こう言葉を選ぶ。
「負けた我々が次に勝ち続けるためには、個々人が強くならなければいけない。ラグビーは15人対15人のスポーツですが、ひとりひとりの集合体。個々の底上げは重要だと思います」
個々の資質で上回る相手と、互角に戦えた。その勝負で白星を獲るには、何らかの手順で個々の資質を引き上げるほかないとわかった。日本ラグビー界のそれが現在地だ。
(文責・向風見也/ラグビーライター)