なぜカシメロは不甲斐ない負傷ドローに終わり井上尚弥戦のアピールに失敗したのか…「井上には楽勝」と豪語も大橋会長は「もうちょっと練習しないとダメ」と苦言
なぜカシメロが井上尚弥戦のアピールに失敗したのか。
実は、カシメロが、告白したように約1年半のブランクがあり、パンチのない小國をなめてかかり、万全の準備を整えていなかった。
伊藤氏が、こう明かす。
「練習不足。故郷に恩返ししたいからと、生まれ故郷にジムを作って、そこで練習をして外(海外)に出ようとしなかった。次はアメリカに練習環境を整えて、そこでやってもらうようにする」
カシメロは故郷のフィリピン・レイテ島メリダに自分のジムを作り、貧困に苦しむ子供達が非行に走らないようにボクシングを教えているが、スパーリングパートナーもおらず練習環境は整っていなかった。伊藤氏は、自らが現役時代に戦った元OPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王者の三代大訓(横浜光)らをパートナーとして送り込んだが、彼らが帰国すると、もうスパーをしなかったという。小國の研究も怠っていた。それで元世界王者に勝てるほどボクシングは甘くない。
カシメロは「次は誰でもいい。とにかく井上尚弥とやりたい」と熱望したが、モンスターとの試合を実現するには、大橋会長が出した「もう一回試合してもらって豪快に倒す」という条件をクリアして商品価値をアップしなければならない。
伊藤氏は12月にフィリピン、来年1、2月に韓国での興行を計画しているが、そのどちらかにカシメロを登場させる考えを明かした。対戦相手として「面白いかもしれない。前向きに検討してみたい」としたのが、小國との再戦だ。
小國は、試合後、「ワンモア(もう1回やろう)」と直接、再戦を要求して「フレンド、フレンド」という言葉で受け流された裏話を明かした。
「チャンスがあるならばやりたい。今回は舐めてきていた。でもちゃんと仕上げてこられたらもっと苦しい。不用意にはこなくなるし、もっと作戦を練らないといけない。思ったより足と一緒に打ってくる右が嫌だったしね」
“参謀”の阿部トレーナーは「おそらくビデオを見直しても、小國の独特のタイミングで打ってきたパンチが当たった理由がわからないと思う」と再戦に自信を持つ。
一方のカシメロは、そっけなかった。
「再戦してもあんなもんだろう。もうやる必要はない」
よほど自らのファイトが歯がゆかったのだろう。
伊藤氏の決断次第だが、再戦を指令されればノーとは言えない。
最後に。
カシメロの迫力に飲み込まれることなく冷静に立ち向かった小國の勇気を称えたい。
――怖くなかったのか?
「めちゃ怖いですやん。見てたらわかるでしょう」
――それでもなぜ打ち合った?
「たくさんお客さんが来てくれました。5年間、まともに試合もしていないのに阿部さん(トレーナー)がマンツーマンで面倒をみてくれた。結果で恩返ししたかった」
進退をかけてボクシングの本質を忘れずに勇敢に戦ったボクサーが、試合結果は中途半端だったものの、井上尚弥のライバルに足踏みさせ、平日の有明アリーナに素晴らしい白熱の空間を作った。だからボクシングは面白い。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)