MGCで優勝してパリ五輪男子マラソン代表に内定した小山直城っていったい何者?東農大時代にチームは箱根駅伝出場なし
トラックでは2021年7月に10000mで27分台に突入。「パリ五輪に出たい」という思いが強くなり、小山はマラソン挑戦を決意した。
約半年後の2022年3月の東京で初マラソンながら2時間08分59秒(22位)をマーク。同年8月の北海道は2時間14分20秒(11位)で、今年3月の東京で2時間08分12秒(15位)をマークしてMGC出場を決めた。
次のレースはMGCに絞るのがオーソドックスな考え方だが、小山は違っていた。7月のゴールドコーストに参戦。設楽悠太が保持していた大会記録を10秒更新する2時間07分40秒の自己ベストで優勝を飾り、自信をつけたのだ。
「自分はマラソンの経験が少なかったので、経験を踏む目的と、後半の落ち込みを少なくするのを課題に出場しました。そのなかで悠太さんの記録を超えられたのは、MGCに向けてプラスになりましたね。相手選手はよくわからなかったので、優勝できたのは運が良かったなと思います」
そしてレース本番に向けては、前日から〝追い風〟が吹き込んでいた。
箱根駅伝予選会で母校・東農大が11位で通過を果たして、10年ぶり70回目の本戦出場を決めたのだ。
「多くの方から農大が通過できて良かったね。このまま勢いに乗って頑張ってね、と言っていただきました。母校の活躍は自分の励みになりますし、うれしかったです」
レース当日の天候も小山に味方した。
「今回の雨と風の気候は自分にとってはプラスで、勝因につながったかなと思います。また、あまり注目されていなかったので、抜け出しやすかった点も良かったです。ラスト3㎞は仕掛けたというよりもちょっとずつペースを上げていこうかなという感じで走っていたら後ろの選手が離れてくれたので、自分にとってはラッキーでしたね。残り2㎞は下りもあって差がつかないコースなので、そこで今日は勝てたかなと思いました」
Hondaの小川智監督は小山のことを「非常にクレバーな選手」と表現する。
「戦略的な部分では、上り切ってからの40㎞手前からが勝負になると読んでいたので、そこまでは絶対に動かないように、という指示を出していたんです。でも、小山は状況の見極めが素晴らしかった。彼は自分で考えることが好きなので、パリ五輪に向けては、ゆっくりと考える時間を与えたいと思います」
実力と知力と運を駆使して、パリ五輪の男子マラソン代表内定をつかんだ小山。本番に向けては、「今後は一度休養して、まずはニューイヤー駅伝に向けてしっかり走れる準備をしていきたいと思っています。その後は、大阪か東京のどちらかでマラソンを走って、パリ五輪につなげていこうかなと考えています」と語った。
正直、世界との実力差は小さくないが、今冬のマラソンで記録を大幅に伸ばす可能性は十分にある。今夏のブダペスト世界選手権で山下が終盤、上位争いをしたように、クレバーな戦い方をすればメダルに近づくことはできる。パリ五輪でも小山の好走を期待したい。
(文責・酒井政人/スポーツライター)