「サイン漏れ事件」の真相とは?阪神・岡田監督と広島・新井監督の因縁と情報戦
記事のきっかけとなったのは、ゲーム差無しで激突した7月29日の甲子園での広島との首位攻防戦だった。3回に百戦錬磨の岡田監督が、新井監督に作戦の裏をかかれる場面があったのだ。先頭の近本が先発の森下から中前打で出塁。続く中野の打席で阪神ベンチはカウント1-1からエンドランを仕掛けた。だが、広島の森下―坂倉のバッテリーは、これをピッチドアウトで外して、中野はバットを振ることもできず、スタートを切っていた近本は、一、二塁の途中で立ち止まりアウトになったのである。通常、ピッチドアウトはベンチからの指示によって行われる。サインを見破っていたのか、それとも傾向から読んだのか。この満を持してのピッチドアウトが、阪神打線のリズムを狂わせ、この真夏の首位攻防戦は、4時間56分の激闘の末、2-2の引き分けに終わったのである。
文春の記事が出たのは、この後。次の広島戦で試合前にメンバー交換をした際、新井監督は、岡田監督に「(サインを漏らしている)犯人は××ですよ」と、あるスタッフの名前を笑って伝えたという。
そのスタッフは絶対にサインを漏らすような人物ではない。
岡田監督も「何を…ふふ」と不敵な笑いを新井監督に返した。
実は、岡田監督は、なぜエンドランのサインがばれたかの理由をすでに調べていた。今季の阪神は、岡田監督がベンチからサインを出して、三塁コーチの藤本内野守備走塁コーチを経由して、選手へ作戦を伝えるが、その経由途中でちょっとした行き違いが起き、それを昨年まで阪神のバッテリーコーチを務めていた広島の藤井ヘッドコーチに察知されたのである。なぜ作戦がバレたかがわからなければ気持ち悪いが、ピッチドアウトされた理由がわかっているので岡田監督は何ひとつ気にしていなかった。逆にそれをここ一番で逆手に取ることもできる。
だから文春が報じた「サインが見抜かれとる」などの発言はしていない。
ただ広島の野球は、故・古葉竹識監督の時代から、伝統的に、そういう情報戦に細かい目配りをするチームである。
横浜DeNAと戦ったCSのファーストステージの初戦では、8回にバッテリーの無警戒のスキをつく羽月の三盗から、セーフティースクイズではなく、羽月にスタートを切らせるスクイズで、ノーケアだった東―山本の横浜DeNAバッテリーから1点をもぎとるなど、ノーヒットで試合の主導権を握ったのである。
だが、こういう野球をやってくるチームとの対戦が、岡田監督は大好きである。前回指揮を執った時には、中日に“策士”の落合博満氏がいて、岡田監督は、落合監督との戦術、戦略の駆け引きを緊迫の戦いの中でも楽しんでいた。