阪神の岡田監督は不可思議なノイジー申告敬遠策に「先に(佐藤を)敬遠すると思ったけどな。(5番が)なめられとんな」…日本S進出に王手をかけたサヨナラ劇の裏にあった采配力の差
岡田監督は、打ち勝つことよりももう守り勝つことに思いを巡らせていた。
「しのぐ事しか考えてなかった。点を入れる事は考えてなかった。はっきり言って。打つ、打たないは考えてないよ。そんなん一喜一憂しとったら体が持たんからな。10回の表しか考えてなかった。ノイジーのところに桐敷を入れて2イニングいくとかな」
岡田監督は延長を覚悟して桐敷の回跨ぎ継投を決意していたほど。
だが、その坂本がストレートの四球を選び、恐怖の8番打者の木浪につないだ。敬遠以外で、この日、初の四球。そして木浪の満塁での得点圏打率は.444である。
坂本はネクストバッターズサークルにいた木浪を右手で指差して何やら大きな声で吠えた。SNS上ではWBC準決勝のメキシコ戦で吉田正尚(レッドソックス)が四球を選び、次打者の村上宗隆(ヤクルト)を指差したシーンに重なると話題になった。
木浪は、その坂本のメッセージをしっかりと受け取った。
「“任せたぞ”と合図してくれたのがわかった。“よし!”と打席に入った。みんながつないで、つないで回してくれた。絶対にここで決めると」
それでも気負ったのか、カウント0-1から2球目の高めのボール球に手を出してファウルにした。岡田監督は「ちょっとまずいな」と思ったという。だが、木浪自身も、この瞬間「ちょっとやばいな」と感じていた。そのことで我に返った。ここからが粘り強かった。ボールから2球ファウルの後の6球目、落ちないフォークの失投を一、二塁間に引っ張った。打球が抜けたことを確認すると、木浪は人差し指を立てて右腕を掲げ、同じように右手の人差し指を立てた大山が満面の笑みでサヨナラのホームを駆け抜けていく。ベンチはもう空っぽ。満員の甲子園が揺れた。
満塁の場面で打席に立てば、「打てる気がします」と豪語したヒーローは、「何とか自分らしく食らいついて最後ああやって打ててよかったです」と喜びを噛みしめていた。
岡田監督は、村上、大竹、伊藤のシーズン中のローテ―の順番を変えて第2戦に伊藤を持ってきた。究極のマイナス思考である岡田監督は、万が一、初戦を落として1勝1敗となったケースを考えて、CS初体験となる大竹でなく、昨年も敵地ハマスタでのCSを経験済みで安定感を誇る伊藤を配置したのである。
だが、伊藤も、前日の村上と同様に緊張からか本来の姿とは違っていた。逆球が目立ち制球を乱した。立ち上がりにいきなり菊池に二塁打を打たれ、一死三塁から小園に先制タイムリーを許す。2回に一死一塁からノイジーのライトを襲ったひねくれた回転の打球のバウンドへの目測を末包が誤ってスルー。ラッキーなタイムリーエラーとなって同点に追いつくものの、3回は先頭の大瀬良に四球を与えるなど制球に苦しんだ
「今年で一番悪かったんじゃないか。7回までは1点で、ほんともうなんというか、しのいで、しのいで。しのぐ事しか考えてなかった。4、5点取られている内容。高めばっかり行ってたもんなあ。ちょっとやばいなあと思った」とは岡田監督の回想。
試合前の投球練習の段階でブルペンから「調子が悪い」と報告があったという。
6回もボールが高めに浮き、一死二塁のピンチ。だが、小園を追い込んでショートゴロ。続く堂林には、ボール3となったところで岡田監督は申告敬遠し、続く西川はショートライナーが正面をつき打ち取った。カウントを追い込まれてからは、逆方向に押っ付けようとしていた小園、西川ら左打者の狙いを逆手にとって抑えることができたが、もう限界に見えた。
それでも岡田監督は伊藤を7回も続投させた。
「まだ球数(89球)も大丈夫やったからな」