「18年ぶりにアレしてもシリーズに出れんかったらシラケるわな」なぜ阪神は広島にCS3連勝で日本S進出を決めたのか…知られざる岡田監督の苦悩と覚悟
スイープで決める気だった。
この日、シーズン中、ずっと愛用してきた黄色いベルトのHAOFA製の腕時計を白のベルトの新しいモノに変えた。優勝記念に同社から虎の顔がデザインされた特別バージョンの時計をプレゼントされたのだが、その記念時計を初めて着用したのである。それは縁起を担ぐ岡田監督の「今日決める」という決意の裏返しであり、短期決戦での1敗が、どう響くかを知り尽くしている指揮官の危機感でもあった。
人知れぬプレッシャーがあった。
「これで日本シリーズに出れないようなことになったら、ちょっとシラケるわな。誰も納得せんやろ。ファンはガッカリするやろな」
優勝を記念して痛飲した横浜の夜にふとそう漏らした。
18年ぶりVの価値が下がることなどないが、もし万が一、日本シリーズ進出を逃すことにでもなればファンを失望させてしまうという責任感である。
岡田監督には短期決戦へのトラウマがある。
2005年は、まだCSが導入されていなかったが、日本シリーズで、ロッテに4連敗。4試合で投手陣は33失点し、得点はわずかに4。ファンの間では不名誉な「33―4」として記憶された。
2007年は、3位でCSファーストステージに挑んだが、エースの井川慶をポスティングで欠き、慢性的な先発不足に苦しんだシーズンをそのまま映し出すような展開になって中日に連敗。2008年は13ゲーム差を巨人にひっくりかえされた責任を岡田監督がとって電撃辞任。ショッキングなニュースが明らかになった中、2位で中日を迎えたが、甲子園の改修工事で京セラドームでの戦いとなり、1勝1敗で迎えた第3戦に守護神の藤川球児が0-0の9回にタイロン・ウッズに決勝2ランを浴びて終戦。あれから15年の歳月が過ぎる間、アルコールが入ると、何度か「オレは短期決戦は苦手やから」と、自虐的に話した。
9月14日の巨人戦で優勝を決めて以来、戦いは個人タイトルの争いへと変わり、岡田監督の思考も、そちらにシフトしたが、心のどこかに潜んでいたCSへの気がかりが、65歳の肉体に影響を及ぼしたのだろうか。
「なんかしらんけど、何時に寝ても、きっかり夜中の3時30分に一度、目が覚めるようになったんや」
だが、そんな不安も、岡田監督が作りあげ、選手が成長しながら、構築したタイガースの野球が吹き飛ばしてくれた。
しかし、岡田監督が真夜中の3時30分に目が覚めることなく、安眠できる夜は、まだ訪れない。28日から日本シリーズという最後の難関が待ち受けている。
「まず第一段階というか最初のステージをクリアした。あと1週間。もう一度打つ方も調子を上げて、相手はわからないですけど、もう一つ上のステージで勝ち上がれるように頑張りますんで、また28日から応援よろしくお願いします」
優勝インタビューではファンに向けてこう約束した。
囲み会見が終わり、クラブハウスへと歩き出した岡田監督は「どっちが勝ったんや?」とオリックスとロッテの結果を報道陣に聞いた。
どっちが来ますかね?
「そりゃオリックスやろ」
11年前。紙切れ1枚で解任を通告されるという屈辱を味わった因縁のパリーグの覇者を指名した。阪神の日本一は、岡田監督が現役時代の1985年以来、38年ぶりの快挙となる。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)