「采配を不安視する声も多かった」なぜ高校サッカー界の名将は異例の転身1年目でFC町田をJ1に昇格させることができたのか?
状況によっては厳しい言葉も厭わない。
思い出されるのは5月21日の清水エスパルス戦。昇格を争う最大のライバルと見られた強敵との一戦で、前半途中にセンターバックが負傷退場するアクシデントが起こった。代役として緊急出場を命じられた藤原はしかし、スパイクを履いていなかった。
ピッチに入るまでに時間を要した隙を突かれ、清水に同点ゴールを決められて迎えたハーフタイム。戦う準備ができていないとして黒田監督に雷を落とされた藤原は、高校時代からの長い師弟関係のなかでも「記憶にないぐらい怒られました」と、後半終了間際に味方があげたゴールで勝った劇的な一戦のなかで深く反省していた。
さまざまな積み重ねのなかで手にした待望のJ1への切符。黒田監督の続投を問われた藤田社長は「当然です。明らかですよね」と笑顔でうなずいた。もっとも、黒田監督自身は特に夏場以降の戦いに満足していない。実際に第5タームにあげた勝ち点は再び「11」にとどまり、2位以下のチームとの勝ち点差を縮められた時期もあった。現在の勝ち点は「78」で、残り3戦を全勝しても開幕前に掲げた目標の「90」には届かない。
何よりも前日21日に2位の清水が勝利したため、昇格は決まっても、就任時に公約として掲げた優勝はまだ果たしていない。ゆえに敵地のゴール裏へ駆けつけたファン・サポーターへ挨拶にいったときに、黒田監督は歓喜の胴上げに断りを入れている。
「その誘いもありましたけれども、目標はあくまでも優勝なので。次のホーム最終戦でしっかりとそれを果たして、多くのファン・サポーターが集まってくれる前で目に焼きつけられるような試合をしたいし、そういった機会を得られればと思います」
この日にJ3降格圏内の21位以下が決まったツエーゲン金沢を、ホームの町田GIONスタジアムに迎える29日の次節。勝てば無条件で町田のJ2優勝が決まり、自分が成功することで次に続く方々の弾みになると、50歳を超えてプロの世界に挑んだ黒田監督が宙を舞う。
(文責・藤江直人/スポーツライター)