なぜ2階級4団体統一戦が正式決定した井上尚弥は封印していたKO宣言を解禁したのか…「どこまで強くなれるか」…タパレスに抱く危機感とボクシング配信時代を引っ張る責任感
――何かを持っている?
そう聞くと、意外な返答が返ってきた。
「持っているなとも思うし、この(映像)配信の時代に、日本のマーケットがあるからこそ、フルトン戦もタパレス戦も実現できた。時代の波に乗れた」
ビッグマネーを生み出すことになったアマゾンプライムビデオの参入は、WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太とIBF世界同級王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのビッグマッチから始まったが、その後、井上が引き継ぎ、今回の試合も、NTTドコモの映像配信サービス「Lemino」が独占無料ライブ配信する。ABEMA、U-NEXTなどが現在ボクシングを配信するキャリアが増えた。ボクシング配信時代を牽引したのは井上の存在である。
「もう自分もキャリアの後半。後輩のボクサーがこの波に乗れて、ボクシング界も盛り上がって、この人気が、10年、20年と続いていければと思う。それをするには、今自分が、最高の結果を出して、そういうものを作っていかねばならないとの責任もある」
モンスターが背負っているものは少なくない。
年末の決戦まで残り2か月。
井上はすでにメキシコからIBF世界同級15位、WBC世界同級20位で、7月に日本非公認のIBO世界同級王座を獲得したばかりのエリック・ロブレス(23)と、世界王者とのスパー経験が豊富でタパレスに似たスタイルで10戦無敗(3分)のホセ・アンヘル・ガルシア(25)を呼びスパーリングを開始している。
1か月後にさらに新しいパートナーを2人招聘する方向で「2人がいいパートナーなんで素晴らいし環境で練習ができている」と井上は満足しているが、本来ならばタパレスと同じフィリピン人を招聘する方がリズムやテンポをつかむ意味でベストではある。
11月15日に元IBF世界スーパーフライ級王者のジェルウィン・アンカハス(31、フィリピン)とWBA世界バンタム級王座の初防衛戦を行う弟の拓真(27)はフィリピン人のパートナーを呼んでいるが、井上は「(フィリピン人同士で)話が漏れる」とあえてメキシコ人にした。この細心の注意がモンスターの凄さ。11月上旬に1週間程度の走り込み合宿を入れて、4団体統一戦に向けて万全の準備を整える。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)