なでしこ池田監督が明かすパリ五輪予選「75分間のボール回し」で賛否を呼んだ戦術選択の舞台裏とは?
肌寒い日本で初戦を戦い、さらに中3日で南半球への長距離移動と真逆の季節に対する順応が必要となるオーストラリアとの対戦を避けるにはどうすればいいか。答えはグループAから、2位の最上位国を出さない状況を作り出すことだった。
グループAで2番手のフィリピンは第2節を終えて1勝1敗ながらも、得失点差でマイナス5と大きく後退した。一方でグループCの初戦では、ウズベキスタンがベトナムに1-0で勝利していた。なでしこがウズベキスタンに勝つ前提のもと、相手の得失点差にダメージを与えるゴールラッシュは必要ないという共通認識が首脳陣の間でまず共有された。
そして、試合会場のブニョドコル・スタジアムへ到着した直後のロッカールーム。ウズベキスタン戦は勝ち点3を手にすることだけが最大にして唯一の目的で、複数のリードを奪ってからはボール保持に徹する、という指示が選手に伝えられた。
「最終的に伝えたのはウォーミングアップ前に、ロッカールームでミーティングを行ったときです。今回の予選はいろいろなケースを考えて戦う、というのは事前に選手たちにも伝えていましたし、もちろん選手たちもレギュレーションや最終予選の組み合わせ方法なども知っていたので、反応としては『じゃあ、それでいきます』といった感じでした」
試合は前半15分までになでしこが2ゴールを奪い、以降は無目的なパス回しに終始。放ったシュートもゼロというなでしこの戦い方にウズベキスタンも呼応し、自陣にブロックを敷いたまま、ボールを奪おうとしない奇妙な光景が続いた末にタイムアップを迎えた。なでしこのボールポゼッション率は、通常ではありえない93%に達していた。
試合中から日本のSNS上では「無気力試合」、「こんなにつまらないサッカーは初めて見た」、「くだらねぇ八百長見せてくれて有難う」といった批判や、「批判覚悟での苦渋の戦略」、「レギュレーションの仕組みをふまえての戦術」と擁護する賛否のコメントが飛び交った。
さらに割を食うのはグループBの中国だと、勝手に受け止めた同国のメディアが「日本はサッカーというスポーツを完全に汚した」、さらには「我々にできるのは、彼女たちに唾を吐いて軽蔑することだけだ」と激しいバッシングを展開した。
それらのすべてを、池田監督も把握していた。
「サッカーのとらえ方はいろいろあるし、私自身もやはり心苦しい。そのなかで勝ち上がるために取った部分でもあるので、そうした意見があるのは当然だと思います」