「今日で歴史が変わった」なぜアビスパ福岡は浦和レッズを倒して初のルヴァン杯王者となったのか…4年で“エレベータークラブ”を変えた長谷部監督のマネジメント能力
残り3試合となったJ1リーグ戦で、浦和は18チーム中で最少の22失点と堅守を誇っている。原動力は身長189cm体重84kgのアレクサンダー・ショルツ(31)と、185cm77kgのマリウス・ホイブラーデン(28)の両センターバック。強さと高さを誇る最強コンビに真っ向勝負を挑むのはあまりに分が悪すぎる。決勝戦のMVPを獲得した前が言う。
「ゾーンで組まれたときの浦和の守備がかなり堅くなるのはわかっていた。なので、こういうカウンター気味の流れから、グラウンダーのときに中へ入っていく方がチャンスになると、ゴールが入るのかなとみんなで狙いどころを話していました」
浦和ゴール前では空中戦を極力捨てて地上戦に徹する。そのために左右からグラウンダーのクロスを入れるトレーニングを繰り返した。さらにボランチが主戦場の前を、一列前のシャドーで初めて起用。スプリントを繰り返せる前のスタミナは攻撃面だけでなく、浦和の最終ラインからの組み立てを封じるプレスでも奏功した。山岸が続ける。
「ヒロ(前)がシャドーで先発するのはいままでになかった形ですけど、そのヒロが先制点を決めちゃうんですからね。シゲさんはそれを引き寄せる勝負師でもあるし、選手からの信頼も本当に厚い。僕がアビスパに来てからの3年間、一度も悪口というか、シゲさんに何かを言う選手を見たことがないので。いままでいたチームは誰かしら監督に何かを言っていたし、そういうチームは強くならないというか、いいチームじゃないので」
山岸をはじめとする選手たちが、親しみを込めて「シゲさん」と呼ぶ長谷部監督が就任したのは2019シーズンのオフ。現役引退後の2006年にヴィッセル神戸で指導者の道を歩み始め、ジェフ千葉のコーチへて2018シーズンからJ2の水戸ホーリーホックを指揮。翌年にクラブ史上で最高位の7位に導いた手腕を見込まれ、5年ごとに昇格しては1年でJ2へ降格するパターンを、3度も繰り返してきた福岡の悪しき歴史を変えるミッションを託された。
実際に1年目の2020シーズンに2位に導いてJ1へ昇格させると、2021シーズンにはクラブ史上で最高の8位で残留を勝ち取る。昨シーズンも14位と踏ん張った福岡の特徴を端的に表現すれば、優勝監督会見で指揮官が残した言葉に凝縮される。
「ここまで来るのに時間はかかったが、福岡がこれだけ力をつけて、決して華麗ではないけれども、優勝を勝ち取る力をつけたことを嬉しく思う。積み上げてきたものが間違っていなかった、信じてよかったと証明できたと思っているし、自分を信じてついてきてくれたスタッフと選手たち、ファン・サポーターのみなさんも含めた全員にお礼を言いたい」
堅守速攻をベースに、全員が攻守両面で愚直に、泥臭く戦い続ける。しつこく、絶対にあきらめずに食らいついてくる福岡は、時間の経過とともに対戦相手から嫌がられるハードワーク集団と化していった。そして、J1で戦い続けて3年目の今シーズンに大きな変化が生じた。2020シーズンの途中にモンテディオ山形から加入した山岸が言う。