「今日で歴史が変わった」なぜアビスパ福岡は浦和レッズを倒して初のルヴァン杯王者となったのか…4年で“エレベータークラブ”を変えた長谷部監督のマネジメント能力
「チームが一丸となって戦うスタイルは、ずっと自分たちのストロングポイントだと思っていた。そこへ個の力が加わっている今シーズンはすごく面白くて、強いチームになっていると思うんですよ。J1のスピードというものに地道に慣れてきて、自分たちにできることを増やしてきて、少しずつ階段を上ってきたなかで、いまは全員がすごく自信を持ってプレーしている。それが今回の優勝というものを必然的に生んだと個人的に思っています」
山岸が言う個の力がFC東京から加入したドリブラーの紺野であり、スコットランドのセルティックから加入した元日本代表で福岡出身のMF井手口陽介(27)だった。特に後者は福岡の中盤に獰猛なボール奪取力と、より強い前への推進力を与えた。
天皇杯でベスト4に進出するなど、力がついたと証明した福岡はルヴァンカップで初めて決勝へ進む。そして、浦和との大一番を前に、指揮官はこれまでとは異なるアプローチを施した。それは何がなんでも勝つ、という執念をチームに植えつける作業だった。
「いずれタイトルを取れると考えているクラブもあると思うが、それでは取れない。ここで取れなければ、何年も何年もずっと取れないままだと。来年以降もタイトルを狙えるチームになるかどうかの瀬戸際というか、ライン上にいたと思っていたなかで、今日で歴史が変わった。クラブはさらに前進して上を目指す。そういう方向に進める状況を嬉しく思う」
自分たちで手繰り寄せた千載一遇のチャンスを、絶対に逃してはいけない。明確なメッセージを込めながら、1週間を徹底した浦和対策に費やした。心身両面で準備を整えたからこそ、浦和にも6万人を超える大観衆にもまったく怯まずにプレーできた。水戸時代から6年間も師弟関係にある前は、チームを束ねた長谷部監督の存在をこう語る。
「一番の魅力はチームをまとめるマネジメント力だと思っています。本当に実直で、いいときも悪いときもまったく変わらないからこそ、選手たちも信じてついていける。今日の試合後も含めて、普段からずっと変わらないところが本当にすごいと思う」
優勝監督会見でも決して興奮せず、思わず「偶然」と言いかけた場面以外は、冷静沈着かつ論理的に言葉を紡ぎ続けた。その視線はすでにリーグ戦へ向けられている。今シーズンの目標はリーグ戦で8位以内と2つのカップ戦でベスト4以上。現在8位につけるリーグ戦で完璧な形でシーズンを終えるために、長谷部監督は新たなマネジメントを講じている。
(文責・藤江直人/スポーツライター)