【緊急連載2】なぜ阪神の岡田監督は日本S第6戦から梅野隆太郎をベンチ入りさせたのか…“恐怖の8番打者”木浪聖也誕生の知られざる決断
横浜DeNAと対戦した3月31日の開幕戦のスタメンは「7番梅野」「8番小幡」だった。
岡田監督は「ショートは打たんでもええ。守り優先よ」と説明していた。
小幡は開幕戦で猛打賞をマークしたが、その後、バットが湿りだし、7戦目となる4月8日のヤクルト戦から岡田監督は、小幡に代えて「8番ショート」で木浪を初めてスタメンで起用した。
翌9日のヤクルト戦で木浪が3安打と爆発、11日の巨人戦でも続けて2安打し、4月の打率.316と好調をキープしたため、結果で小幡との競争に勝ち、ポジションを奪うことになる。
岡田監督は実力主義だ。才能やセンスは見抜くし、チームの将来を考えて「差別ではなく区別はする」が、先入観で決めつけることはせず、フェアな目線でチャンスを与える。
いわば木浪が実力でレギュラーを奪い取ったわけだが、岡田監督は背番号「0」がいくら打っても打順を動かさなかった。
梅野の打力を買い、7番梅野、8番小幡の構想でスタートし、その小幡に代わって8番ショートの座に収まった木浪が、想定外の結果を残し始めた。セイバーメトリクスの理論で言えば、打撃成績のいい打者から順番に打順を上げるものだが、岡田監督は「つながり」を重視した。
実績のある投手になればなるほど、相手打線の打順に応じてメリハリをつける。いわゆるイニングマネージメントである。8番に強打者が座れば、そのメリハリに狂いが生じる。どこからでも点の取れる打線ほど相手バッテリーからすれば厄介なものはないのだ。
木浪は「1試合、1試合、自分の役割を果たすだけ」の積み重ねでチャンスで回ってくれば打点を稼ぎ、高い出塁率でチャンスメーカーにもなって、近本、中野の1、2番コンビにつなぐという役割を担った。
球宴投票でも、ショートのポジションで1位となり、岡田監督が「オールスターの投票で1位になっているショートは外せんやろう」と語るほどの存在になった。
近本が54打点、中野が40打点。いずれもキャリアハイの数字で、昨季に比べて近本が20打点、中野が15打点増えた。木浪が軸となった下位打線が、いかに上位にチャンスをつないだかを示す数字だ。
オーナーへの日本一報告後の会見で岡田監督は「役割というのはある程度打順を固定してあげないと自分の役割はわからないと思う」と振り返った。
7月2日の巨人戦で死球を受けた近本が離脱し、次のゲームで1試合だけ木浪を2番で起用したが、1番近本、2番中野、4番大山、8番木浪の打順だけは、ほぼ固定した。梅野が離脱して、坂本がマスクをかぶるようになっても8番木浪の打順は動かさなかった。
日本シリーズではシーズンで135通りに打順を動かしたオリックスと対照的なチームのスタイルがクローズアップされたが、「動かさなかった阪神」が日本一となった。“恐怖の8番打者”の木浪は日本シリーズの全試合にフル出場し、打率.400、5得点、1打点の成績を残した。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)