【緊急連載3】阪神の岡田監督はいかにして“虎戦士たち”の心をつかみ日本一に導いたのか…「監督賞」と「監督室の会話」
岡田監督は、こう訊ねた。
「なんかつかんだやろ」
ウォーターシャワーを浴び、まだ興奮も冷めやらぬ大山は、真っ赤な顔をして、その言葉を否定することなく受け入れ「はい」と答えたという。
大山は、8月に入ってスランプに陥っていた。岡田監督は8月中旬にマツダスタジアムで行われた広島戦の試合前に秘密裏にブルペンに大山を呼び、ドアを閉めて個人レッスンをした。体が開き、レフトに体が向いて強くスイングしようとする悪癖が出ていた。教えたことはシンプル。素振りから、センターから右方向への打球をイメージして振れということだった。サヨナラ打は、引っ張った打球だったが、そのスイングをイメージしていたからこそ、引き付けてミートできていた。だから、岡田監督は、なぜ打てたかをわかっているかどうかを大山に確認したのだ。
大山は、オリックスに2勝1敗と先行された日本シリーズの第4戦で9回にサヨナラ打を放った。“逆シリーズ男”になりかけていた大山に岡田監督は「センターへ打て」とアドバイスを送っていたという。
3勝3敗で迎えた第7戦の試合前には、京セラドーム大阪の監督室に先発に抜擢した青柳を呼んだ。今季は8勝6敗で防御率は4.57。最後まで安定感のなかったサブマリンをあえて、最終決戦の舞台に立たせたのは、ここ京セラドーム大阪で横浜DeNAを迎えた3月31日の開幕戦の先発が青柳で、勝ち投手になっていたからだ。
「おまえでスタートしておまえで終わるんや。思い切って楽しんで攻めろ」
この時も多くは語らなかったという。
初回失点が17もあり阪神のローテ―投手の中で“最も立ち上がりの悪い”アンダースローが初回を無失点で切り抜けた。課題の制球力もそこまで悪くはなく、なにしろボールが来ていた。得意のシンカーで、強力なオリックス打線にゴロの山を築かせて、5回二死までゼロに封じた。
「オレはな。選手には嫌われていると思うで」
岡田監督が、自虐気味にそう明かしたことがある。
昨今のプロ野球選手たちが持っている知識や理論は進化している。今の時代の野球にはモチベータータイプの監督がふさわしいとの意見もある。選手と深くコミュニケーションを取り、プレッシャーをかけずポジティブな言葉で、その気にさせるタイプの指導者である。
だが、岡田監督は、また新しい監督と選手の関係性を構築して成功させた。
試合後のコメントは辛辣で時には厳しく突き放す。メディアを通じてプレッシャーもかける。逆に手放しで絶賛する場合もある。計算含みのコメントもあるが嘘は言わない。そして何より息子より年下の選手たちを愛している。野球の裏も表も知り尽くして、相手ベンチを凌駕し続けてきた采配力と、監督室でのたった一言が、若き虎戦士の心をひきつけ、ひとつにしたのである。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)