トライアウトでアピールに成功した人と失敗した人…元ヤクルト編成部長のノムさん“右腕”は阪神の高山俊と広島の薮田和樹をどう評価した?
右投手で、この2人に続くのが巨人の田中豊樹(29)とヤクルトの吉田大喜(26)だ。田中は日ハムを戦力外になりトライアウトで巨人に拾われた。今オフは球団職員のオファーを蹴って「まだまだ勝負できる」と再挑戦した。速水、松井には武器であるフォークを続けて内野ゴロ。ストレートも最速148キロが出ていた。吉田は圧巻の三者連続三振。「高めに浮いたが球威で押せた。クビになってからアピールポイントを磨いたが、それがいい形に出た」と満足気。最速は144キロだったが、確かに高めの釣り球が伸びていた。
「田中の角度のある直球とフォークで仕留めるパターンは健在。今の時期に148キロも出るのだからシーズンに入ればもっと球速は増すだろう。制球が問題なんだろうが、声がかかるのでは。吉田はコントロールが抜群。スケールとして、こじんまりまとまっている部分をどう評価されるかだが、中継ぎの層が薄いところでは通用すると思う」
松井氏が左腕でリストアップしたのは3人。
「どこのチームも左腕は貴重。中継ぎのワンポイントとして評価されているはず」とした上で、巨人の山本一輝(25)、阪神の渡邉雄大(32)、ヤクルトの久保拓眞(27)の名前をあげた。
山本はスライダーを操って2つの三振を奪った。38年ぶりの日本一に輝いた阪神は“左腕王国”。そこからあふれた形となった変則左腕の渡邉も、ロッテの福田秀平(34)から得意のスライダーで空振りの三振を奪うなど、2奪三振で存在感を示した。2022年のヤクルトのリーグ優勝に貢献した久保は、巨人の保科広一(25)、ロッテの谷川唯人(21)を連続三振。谷川は高めのストレートで空振りさせた。
「山本は右足の使い方が独特で打者のタイミングがワンテンポずれる。カーブでストライクが取れるので面白い。渡邉は左打者の背中から曲がるようなスライダーは、まだワンポイントで通用すると思う。左腕が豊富な阪神だから年齢的な問題もあって戦力外になったのだろう。久保は、さすがのまとまりがあり、左打者に対して抜いたスライダーが光った」
ただ一方で名前の通った実績組のアピールはうまくいかなかった。特に18人が参加した野手については、「編成がチェックした選手は一人もいなかったのではないか」と松井氏も厳しい指摘をした。
注目は明大からドラフト1位で阪神に入団して2016年に新人王を獲得した高山俊(30)と、ソフトバンクからFAでロッテに移籍した福田、巨人から横浜DeNAへFAの人的補償で移籍した田中の左打者3人だろう。
高山は、第1打席にソフトバンクの左腕、岡本直也(27)のストレートを捉えて右中間に二塁打。第3打席にもヤクルト山川晃司(27)のストレートを一、二塁間に弾き返すなど、7打席立って2安打し、しかも盗塁まで決めた。
「失うものは何もない。結果どうこうより、持っている全力を泥くさく出そうと思った。そこを出せたからよかったかな」
そう振り返ったが、松井氏の見方は厳しかった。
「彼が持っていたシャープさがなくなっていた。バットコントロールにセンスはあるが、守備力も含めて1軍の戦力としては厳しいと感じた。彼を再生したいと惚れ込んでくれるような指導者がいるチームでないと難しいかも」
福田もヤクルトの鈴木裕太(23)のストレートを捉えて、ライトフェンスの上部を直撃する二塁打を放ったが、7打席立ってヒットは、この1本だけ。
「右肩の故障が完治したことはアピールできた。そこをどう評価してもらえるかだろうが、二塁打は打ったが、ストレートがファウルになるなど、スイングスピードがもの足らずに仕留めきれていない部分が気になった」というのが松井氏の評価。