なぜ伝統の大晦日ボクシングの“火”は消えなかったのか…TBSが放送断念もWBA王者井岡一翔の世界戦と比嘉大吾、堤駿斗の世界を狙う2人のアンダーカード
志成ボクシングジムは「LifeTime Boxing Fights18」を大晦日に大田区総合体育館で開催することを20日、発表した。メインではWBA世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(34)が防衛戦を行う予定で、この日は、アンダーカードの元WBC世界フライ級王者で、WBO世界バンタム級5位の比嘉大吾(28)対WBC世界バンタム級9位のナワポン・カイカンハー(32、タイ)のバンタム級10回戦、OPBF東洋太平洋フェザー級王者の堤駿斗(24)対WBA世界同級15位のルイス・モンシオン・ベンチャーラ(25、ドミニカ共和国)のフェザー級10回戦の2試合が発表された。一時、消滅の危機にあった伝統のボクシング大晦日興行が、13年連続で見られることになった。
エストラーダとの統一戦が流れ一時は消滅危機
大晦日ボクシングの火が消えることはなかった。
2011年以来、井岡をメインにした大晦日のボクシング放送を続けてきた地上波のTBSが放送を断念したが、ジム側は興行の開催を決断した。
当初、井岡の対戦相手として、対戦を熱望してきたWBC世界同級王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(33、メキシコ)との統一戦の交渉に入っていた。ただエストラーダ戦を実現するためのファイトマネーなどの必要経費が、TBSの予算を上回っていたため、その時点で地上波の可能性は消え、配信会社でのライブ配信に方向転換していた。結局、ファイトマネーで折り合いがつかずエストラーダ戦が流れ、一時、大晦日興行は、消滅危機にあった。
だが、井岡自身の「ボクシング界を盛り上げたい」との意向もあり、志成ジムは統一戦を防衛戦に切り替え、配信会社の理解もあり、アンダーカードを充実させることで大晦日興行の開催を実現した。これで13年連続で大晦日ボクシングが守られることになった。
ボクシング世界戦での年越しを楽しみにしているファンにとって朗報だろう。
ボクシングの大晦日興行は、古くは1961年からスタートした。一時途絶えたが、2011年から復活。その年はTBSが、当時WBC世界ミニマム級王者だった井岡のV2戦を放映し、テレビ東京が、WBA世界スーパーフェザー級王者、内山高志の王座統一戦と、細野悟のWBA世界フェザー級王座への挑戦のダブル世界戦を放映した。
以降、井岡は引退を表明した2017年を除き、ここまで11度、大晦日のリングに上がってきた。内山も6年連続で大晦日に世界戦を行っている。
ちなみに井岡、内山が共に出場しなかった2017年の大晦日は、田口良一のライトフライ級のWBAとIBFの2団体統一戦、IBF世界ミニマム級王者、京口紘人の防衛戦、WBO世界フライ級王者の木村翔と、五十嵐俊幸の日本人対決などのトリプル世界戦が組まれていた。
この日、発表された2試合も「世界へ」のテーマ性を持った好カード。
王座返り咲きを狙っている比嘉は、62戦58勝(48KO)3敗1分けの豊富なキャリアを持つナワポンを迎え撃つ。
「世界前哨戦の位置づけだと思う。KOでしっかりと倒して勝ちたい。相手は足を止めて打ち合うタイプなので噛み合う」
ナワポンは、2017年3月にファン・エルナンデス(メキシコ)とWBC世界フライ級王座決定戦を戦い、3回TKO負けしているが、この試合の勝者に比嘉が挑戦する予定だったため、当時、ナワポンも研究していたという。結局、比嘉はナワポンに勝ったエルナンデスを倒して世界のベルトを奪うわけだが、ナワポンは、その後、井岡に勝ったアムナット・ルエンロエン(タイ)を倒し、2022年には、現WBO世界バンタム級王者のジェイソン・マロニー(豪州)と挑戦者決定戦を戦い判定負け、今年8月には、WBC世界バンタム級の挑戦者決定戦をビンセント・アストゥロラビオ(フィリピン)と戦い11回にTKO負けしているが世界ランクは9位をキープ。比嘉がナワポンに勝てば、さらに世界ランクはアップすることとなり、世界挑戦が現実味を帯びる。