アマボクシング界の“モンスター”坪井智也が全日本を制してパリ五輪世界予選出場権をゲット…「最も金メダルに近い男」の評価
まずファイトスタイルを見直した。スピードを生かした天才肌の出入りのボクシングが坪井の真骨頂で「誰に対しても戦略で上回る」と宣言してきたが、「足を使うボクシングしかできなくなっていた」ことに気づき、足を止めて打ち合う超攻撃的なスタイルを取り入れることに再チャレンジした。
1日1食、「夜に好きなものだけを食べる」で通してきた食事面も、この1か月は、改善した。自衛隊の栄養士の意見を聞きながら、血液検査までして鉄分が足りないなどの結果が出ると、栄養バランスを考え、朝におにぎりを食べ、昼はアミノ酸系のサプリで補い、夜は野菜中心の奥さんの手料理を食べるようにした。朝に初めてプロテインも飲むようにもなった。
「格闘家というよりアスリートのイメージ」で取り組んだ食の改善の効果はてきめんで、これまで1時間半しか集中してできなかったトレーニングが2時間半できるようになったという。ファイトスタイルが、一気に進化したのも、そのトレーニングの賜物だった。
無敵を誇った日大時代にリオ五輪出場を逃し、東京五輪も、代表選考会だった2019年の全日本選手権のフライ級決勝でプロボクシングの元3階級制覇王者、田中恒成(畑中)の実兄である田中亮明(30)に僅差の判定で敗れて逃した。その田中が東京五輪で銅メダルを獲得したことも手伝い、失意の坪井は、一時、アマチュア競技からの引退まで考えたが、もうその雪辱は坪井の心の中では終わっているという。2021年の世界選手権のバンタム級で、ウエルター級の岡澤セオン(27、INSPA)とともに日本人として史上初となる優勝を果たしたことで、ひとつの区切りがついたのだ。
「世界選手権で日本人初の金メダルを取ったところでボクシング人生の第一章は終わり区切りはついた。そこからが第二章」
パリ五輪を狙う第二章のスタートには、つまずいたが、今回の全日本選手権の圧勝劇から再び第二章が動き始める。来年の2月にイタリア、5月にタイで開催される世界予選のどちらかでベスト4以上に食い込むことが五輪代表枠ゲットの条件。
だが、坪井は、「このきつい練習を継続していけば五輪枠は絶対に取れるんで。あとは金メダルが取れるかどうか」と、その戦いは眼中にない。
決して驕りではなく根拠がある。世界選手権は54キロ級(バンタム)で獲得したが、パリ五輪に向けて51キロ級(フライ)に戻した。
「54キロで世界一を取った動きを51キロでできれば完璧。54キロでは(身長1m60)は小さい方だったが、ここではデカい。スピード、パワー、なんでもできる。これを突き詰めれば世界一は取れる」
周囲の評価も高い。
坪井は杭州アジア大会の71キロ級(ウエルター)で金メダルを獲得してパリ五輪代表となった岡澤セオンと共に「最も金メダルに近い男」と言われている。
日本ボクシング連盟の内田会長は、「東京五輪では金一つ、銅2つでしたが、パリ五輪では、その流れを継続し、さらにレベルアップできると思っています。目標の金メダルは2つ。岡澤セオンと坪井智也の世界選手権の金メダルコンビが獲りますよ。これまで出場枠の確保が難しいとされてきた五輪の世界予選ですが、坪井は間違いなく突破して、本番でも頂点を極めてくれると期待しています」との青写真を描く。
この日、ライブ配信されたdocomoの映像配信サービス「Lemino」で解説を務めたセオンも、坪井に金メダル競演のエールを送った。
「間違いなく坪井は世界予選を突破できるし、金メダルを獲りますよ。2人でパリで史上初のダブル金メダルをやってきます」