• HOME
  • 記事
  • サッカー
  • なぜ「毎年のように主力が流出してきた」東京Vが16年ぶりのJ1昇格を果たすことができたのか?
劇的ドローで16年ぶりにJ1昇格を決めた東京ヴェルディ。城福監督とキャプテンのMF森田晃樹(右)が共にボードを掲げ歓喜の雄叫び(写真・アフロスポーツ)
劇的ドローで16年ぶりにJ1昇格を決めた東京ヴェルディ。城福監督とキャプテンのMF森田晃樹(右)が共にボードを掲げ歓喜の雄叫び(写真・アフロスポーツ)

なぜ「毎年のように主力が流出してきた」東京Vが16年ぶりのJ1昇格を果たすことができたのか?

 城福監督が就任した昨年6月以降も、夏場にパリ五輪世代のMF山本理仁(21、現シントトロイデン)らがガンバ大阪へ移籍。オフにはDF馬場晴也(22、現北海道コンサドーレ札幌)、FW佐藤凌我(24、現アビスパ福岡)らの主力が新天地へ移った。
 チームを取り巻く状況が変わらないなかで、城福監督は就任当初に描いた、ヴェルディを根本的に立て直すための処方箋を実践し続けた。指揮官は端的にこう表現する。
「ハイラインを保ち、相手陣内でボールを動かす。ボールを奪われたら人数をかけて即時奪回する。これらをどのようにしていくのかだけにフォーカスしてやってきた」
 再び選手の引き抜きに直面しようとも、大きな影響を受けにくい戦い方と言えばいいだろうか。9位に終わった昨シーズンも、終盤戦は6連勝でフィニッシュ。総失点は2021シーズンの66から55に減らすなど、改革の効果は確実に芽を出し始めていた。
 迎えた今シーズン。戦い方をより先鋭化させたヴェルディはJ2リーグ最少の31失点と、堅守を武器とするチームに変貌を遂げる。ともに夏場に期限付き移籍で加入した染野(前鹿島アントラーズ)がチーム最多の6ゴール、中原(前セレッソ大阪)が2位の5ゴールをマークするなど、ピンポイントの効果的な補強で得点力不足を補った。
 リーグ戦は2位で自動昇格したジュビロ磐田と勝ち点75で並びながら、得失点差でわずかに及ばない3位だった。順位の上でアドバンテージを持って臨んだJ1昇格プレーオフでも、準決勝でジェフ千葉を2-1でまず撃破。リーグ戦で1-2、0-1と2戦2敗だった清水にも、5万3264人で埋まった国立競技場でしっかりと借りを返した。
 後半18分に喫した先制点もPKだった。計り知れないほど大きな重圧を感じていたのだろう。競り合いでボールを自身の手に当て、PKを献上したキャプテン、MF森田晃樹(23)は試合終了の瞬間からピッチに仰向けになって号泣した。
「彼(森田)も冬に大きな選択を迫られた。ただ、彼は残る決断をした。この1年、一緒にもがいてきた最後に、彼と昇格を勝ち取れた喜びは言葉では説明できない」
 小学生年代のジュニアからヴェルディひと筋でプレーし、今シーズンから新キャプテンに指名した森田への思いを問われた城福監督はこんな言葉を残しながら、一方で東京都に3つのクラブが集う来シーズンの戦いへ向けて、早くも気持ちを新たにしている。
「とにもかくにも、目指すところへ進み続けないとエレベータークラブになってしまう。それぐらい、われわれのいまの予算規模を考えれば楽観視はできない」
 目指すところとは、ハイライン&ハイプレスをベースにすえたポゼッションサッカーのJ1バージョン化に他ならない。期限付き移籍選手たちの所属クラブとの交渉。外国人を含めた新戦力の獲得。経営面では新たなスポンサーの獲得も急務だ。16年ぶりの悲願達成は通過点。生まれ変わったヴェルディは、夢のその先へすでに走り始めている。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

関連記事一覧