天皇杯決勝のPK戦は10人目のGK対決に突入し川崎の鄭成龍(チョン・ソンリョン、赤ユニ)が柏の松本健太(緑ユニ)が左を狙ったシュートを止めて決着をつけた(写真:つのだよしお/アフロ)
天皇杯決勝のPK戦は10人目のGK対決に突入し川崎の鄭成龍(チョン・ソンリョン、赤ユニ)が柏の松本健太(緑ユニ)が左を狙ったシュートを止めて決着をつけた(写真:つのだよしお/アフロ)

川崎を天皇杯王者にした10人壮絶PK戦の舞台裏

 川崎の唯一にして最大の決定機を防いだ松本はこう語る。
「川崎さんの枠内シュートがあまりなかったけど、それでも絶対に何かしらあると集中力を切らさずに準備していたのがあのセーブにつながったと思う」
 試合終了間際から松本はさらに自信を深め、実際にゴミスのPK阻止へつなげた。柏の5人目、FW武藤雄樹(35)はソンリョンの逆を突いてゴール左へPKを決める。いよいよサドンデスに突入したなかで、鬼木監督は嫌な予感に駆られていた。
「やはり落ち込むというか、流れ的にはレイソルのそれになった。ノボリ(登里)も外した状況で、自分としては止めてくれ、外してくれと祈るしかなかった」
 川崎の6人目、DF登里享平(33)の一撃もコースを読み切った松本に阻まれた。絶体絶命の大ピンチで、柏の6人目、DF片山瑛一(32)がクロスバーに当ててしまう。
柏の井原正巳監督(56)によれば、決勝前日と前々日で、PK練習を全員で入念に積んできたという。ゴール左上を狙った片山の一撃も申し分なく、コースを読んだソンリョンも対処できなかった。しかし、ほんのわずかだけ上へ飛んでしまった。
 4-4のまま川崎、柏ともに7番手から3人連続で決める。いつ終わるともわからない死闘は史上最多10人目を迎える。ここで川崎はソンリョンがキッカーに立つ。もう一人、試合終了の瞬間をピッチで迎えたDFジェジエウ(29)はベンチにいた。
 これには競技規則が関係していた。井原監督が言う。
「古賀について、試合中に痛めた足の影響でPKを蹴るのは難しいということで、川崎さんに10人に合わせていただきました」
 柏のキャプテン、DF古賀太陽(25)が先発フル出場したものの、PKキッカーを担える状態にないと申し出てきた。サッカーの競技規則は、PK戦に関して「一方のチームの競技者数が相手チームより多くなった場合、多いチームが競技者数を減らす」と記されている。状況を理解した鬼木監督は、前日のPK練習で精彩を欠いたジェジエウをキッカーから外した。
 もっとも、前日練習ではソンリョンもPKを失敗していた。
「自分はいつも成功させていたんですけど、昨日は低いコースに飛んでしまって。なので、今日は上のコースを狙いました。ピッチ状態が悪く、ところどころに穴も開いていたのでインサイドキックで落ち着いて蹴りました」

 

関連記事一覧