敗れるも歴史を刻む…「こりゃあかん。男やん。倒されるわ」日本初のトランスジェンダーボクサー真道ゴーの実力を対戦相手とJBCはどう評価したのか?
今後は、またMRI、血液検査などの事後検査を経て、JBCの事務局内で、この日のレポートをもとに考えをまとめ、12月27日に行われる定例理事会で男子プロとしてのライセンス交付の可否が審議される。この日の準公式試合には、プロテスト以上の意味合いがあったため、理事会でGOサインが出れば、プロテスト受験の義務は科さずにただちにプロライセンスが交付され、次戦でこれまで真道が目標としてきた男子としてのプロの公式戦のリングに立てることになる。
真道は「もしそうなればポジティブに考えたい」と前向きにとらえた。
2年をかけて訴え続けてきたプロテストが認められず、この準公式試合も「勝てば認められるとかのルールもなかった」と霧の中を彷徨うようにしてたどり着いた場所だった。だから、次の目標を聞かれても明確に答えることをしなかった。いやできなかったのである。
だが、そこにハッキリしたゴールが見えるのであれば話は別。
本石会長も「私は彼の決断、意思に沿うだけだけど、もしプロとしての公式戦がOKであるのならば、間違いなくリングに立つと思う」との見通しを持つ。
「子供達に輝く姿を見せたい」というモチベ―ションが、男としてプロのリングに立つ理由のひとつだった。試合後に4人の子供たちに「ごめんね。負けて」と語りかけると「走って逃げられた」そうが、周りにいた人たちに「子供たちはパパは頑張っていたねと話ししていたよ」と聞かされた。
「負けたけど。生き様は届いたかな」
見知らぬファンから「涙が出た」とも語りかけられた。
「『そんなん無理や』とも言われてきたが、周りにどう思われようが、下を向くんじゃなく前を向くことが大事。男だからとか女だからとかどうでもいい。生き様を見て喜んでくれる人がいれば、2年間あきらめずに頑張って良かったと思う」
国際的にジェンダーフリーが進んでいるが、今なお性同一性障害に思い悩む人たちが少なくなく「私も命を断とうとしたこともあった」という真道は、男子プロとしてリングに立つことへの使命感がある。
「当事者には、苦しんだり、差別を受けたりの悩みがある。でも、どう生まれたから何かをあきらるんじゃなく信念や思いがあれば協力してくれる人が生まれる。私は今幸せ。前を向いて自分のやりたいことが形にできるかを伝えられればいい」
次なる目標は、男子プロのライセンスを手にしての公式戦「1勝」。今回も、試合前には両肩を痛め、36歳の肉体はボロボロではある。だが、まだここは真道ゴーのゴールではない。本当の幸せはその先に待っている。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)