【阪神“アレ”の感動回顧】“あの時”岡田監督は本当に泣いていたのか…知られざるオリックスとの日本シリーズ秘話
WBCの侍ジャパンVで始まった2023年の野球界は阪神の18年ぶりの優勝と38年ぶりの日本一で沸いた。阪神の岡田彰布監督が考案した「アレ」は流行語大賞に輝いた。今年の戦いを振り返る中で、激戦となったのが、オリックスとの日本シリーズだ。岡田監督に聞いた知られざる裏舞台を紹介したい。
予知していた森下の逆転打
あの時、テレビカメラが抜いた岡田監督の表情は確かに泣いているように見えた。日本シリーズの第5戦の0-2で迎えた8回。木浪、代打糸原、近本の3連打で1点を返し、なお一死二、三塁の場面で、森下が見送ればおそらくボールのストレートを左中間に運び、ゲームをひっくり返したのだ。頭から三塁ベースへ滑り込んだ森下はベースを2度、拳で叩いた。その前の回に中野が弾いた打球をカバーした森下が素手でとりにいってつかみそこねるダブルエラーで2点目を献上していた。自らのミスを自らのバットで取り返した。同点、そして逆転。2人の走者をベンチ前で迎えた岡田監督が泣いているように見せたのである。
――監督、あの時泣いていたでしょう?
「泣いてへんよ。なんで泣かなあかんの。森下が打つのわかってたやん」
――え?打つのがわかっていた?
「そうよ。森下のところでピッチャーを変えてくるのはわかっていた。宇田川は3連投。移動日で1日空いたけど4連投やん。そりゃ、もう普通の宇田川と違うやん。フォークも落ちてへんやん。中野に送らせたところで、敬遠で大山勝負をしてくると思っていた。それが森下と勝負してきた。もう、その段階で打つと確信していたよ」
岡田監督は、無死一、二塁で中野にバントのサインを送った。中野がサインに戸惑うことなく心の準備ができるように打席に向かう前にベンチで「バント」を伝えていたという。
森下が敬遠されることを念頭に置きながらも走者を三塁へ進めたのは、宇田川のウイニングショットであるフォークを少しでも投げ辛いシチュエーションを作るため。だが、中嶋監督は森下との対戦を選択した。森下は、見送ればボールの低めのストレートについていきフルスイングした。
そもそも、この回、岡田監督にとって7回までゼロを並べていた左腕の田嶋が、83球で降板したことが想定外だったという。
「木浪からの打順、当然投手のところでは代打を出すけど、そこから近本、中野の左並ぶわけやからな。田嶋にはタイミングは合ってなかった。そりゃ、田嶋でこられたほうが嫌やったよ。山崎颯一郎は2試合ベンチに入っていなかった。何があったかしらんけど、なんも問題がなければ、ベンチに入るわけやろ。あの交代でこの回動くと思ったわ」
木浪がミスを誘う二塁への内野安打で出塁したところからドラマが始まった。山崎颯一郎は制球も定まらずストレートも走っていなかった。中野のバントでしかアウトをとれず、宇田川にバトンを渡したが、すべてがまるで未来を予知できるかのような岡田監督の読みの範囲だった。結局、8回に一気に6点を奪い、3勝2敗で38年ぶりの日本一に王手をかけることになったのである。