SNSで広がる賛否…全国制覇した青森山田高のロングスロー&ロングボール多用のサッカースタイルは本当に非難されるべきものなのか?
一方で総失点は「3」にとどめた。2失点以上を喫した試合はない。堅守の源泉は前線からの激しいプレスであり、試合終盤になっても球際の強度がまったく衰えないスタミナにある。すべては雪深い冬場に、自分たちに妥協なく課してきたフィジカルトレーニングの賜物。しかも青森山田の場合、過酷な環境を承知の上で選手たちが門を叩いてくる。
中高一貫の青森山田では寮生活を送りながら6年間にわたって自らを追い込み、大半の選手が鉄の鎧を身にまとう。球際の攻防でファウルを指摘する声が少なくないのも、あまりにも歴然としているフィジカルの差が関係しているからだろう。それでも今大会で警告および退場処分がゼロの青森山田は、優勝とともにフェアプレー賞も受賞している。
青森山田の目標は、常にプレミアリーグの頂点にすえられている。テクニックに長けたJクラブユース勢を打ち負かすには、歯を食いしばって作り上げた屈強な体を土台としてテクニックを融合させていくしかない。近江の前田監督はこうした姿勢にも驚嘆する。
「覚悟を決めて雪国へ行って日本一を取る、という断固たる決意が山田の子どもたちにはある。何かいろいろと言われていますけど、代替わりしても強くあり続け、毎年のように決勝まで来るじゃないですか。伝統の積み上げがあるんでしょうね。山田の子どもたちが実践しているのは、突き詰める作業。僕らも負けずに突き詰めていきたい」
青森山田は今大会まで、27年間も続けて選手権に出場している。そして、いま現在のスタイルが確立され、悲願の初優勝を果たした2016年度を皮切りに、以降の8大会で6度も決勝に進出。そのうち4度で頂点に立っている。
しかも2年前はインターハイ、プレミアリーグを合わせた三冠を独占。今大会もプレミアリーグ王者として乗り込んできた青森山田は、物語の最後に登場する最大最強の敵、という存在感もあって“ラスボス”と呼ばれてきた。
対戦校から畏敬の念をいだかれる一方で、注目度が高くなる分だけ“アンチ・青森山田”も増える。新チームの中心を担う小沼はこんな言葉を残している。
「注目されれば叩かれるものだと自分は思っているし、実際に叩いてくる人もいますけど、そこに関して自分はまったく気にしていません」
実際、青森山田へのバッシングは、大半が根拠に欠けると言っていい。引き続き追われる立場になる2024年。さまざまな戦術や戦略を練って“ラスボス”を倒すチームが現れれば、それは高校サッカー界全体のレベルアップを意味することになる。
(文責・藤江直人/スポーツライター)