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戦火のウクライナからきたWBA世界フライ級王者のダラキアン(写真・山口裕朗)
戦火のウクライナからきたWBA世界フライ級王者のダラキアン(写真・山口裕朗)

「空襲警報が鳴り響きミサイルやドローンが飛び交う」戦火のウクライナから来たWBA世界王者ダラキアンが祖国に届けたい希望と勇気

プロボクシングのWBA世界フライ級王者のアルテム・ダラキアン(36)が15日、都内の帝拳ジムで練習を公開した。1月23日にエディオンアリーナ大阪で同級1位 ユーリ阿久井政悟(28、倉敷守安)の挑戦を受ける6度防衛の王者は、空襲警報のサイレンが鳴り響き、ミサイルやドローンが飛び交う戦下からやってきた。「いつ人が死んでもおかしくない状況を突きつけられた」というダラキアンは、祖国へ希望と勇気を与えるためにも「国にベルトを持って帰る」と熱く誓った。

 メキシコ人パートナーと一緒に防空壕に逃げた

 プロモーターでジムの会長でもあるユーリ・ルーバン氏がロシアの不条理な侵攻を受けて2年になるウクライナの悲惨な状況を明かした。
「子供たちが空を飛ぶものが怖くなって空を見上げられなくなる現象が起きているんだ」
 ルーバン氏は、ウクライナの東部のドネツクにジムを構えて活動していたが、ロシア軍の占領下に置かれたため、首都キーウに拠点を移したという。
 ダラキアンは合宿の拠点だったキーウから車で18時間もかけて国を出てポーランドに移動、そこから飛行機に乗り、ほぼ丸2日をかけて日本にやってきた。
「街にミサイルやドローンが飛び交い常に空襲警報のサイレンが鳴り響いている。市外で銃撃や攻撃がある。幸い私の家族、親族は被害にあっていないが、知人や友人は亡くなった。前線に出て戦っている友人もいる。ウクライナでこの体験をしていない人はいない。誰かが亡くなり、家が無くなり、焼き出され避難している。帰るところのない人もいる」
 海外からのスパーリングパートナーを呼べず、満足なトレーニングを積めない状況の中でウクライナに来てくれた、ただ一人のメキシコ人パートナーは、その空襲警報に驚き、一緒に防空壕に逃げたこともあるという。
 ルーバン氏が言葉を添える。
「ボクサーは28人が亡くなったんだ。中には前線で戦って戦死したボクサーもいる。そして戦争は2022年からじゃない。2014年からずっと苦しめられているんだ」
 ダラキアンも若い頃に兵役に従事。軍人大会のチャンピオンになった。
 戦争に巻き込まれるという悲劇の中で「死生観、世界観が変わった」という。
「全国が戦争状態。いつ人が亡くなっても仕方がないという状況を突きつけられた。私もそう。毎日、ミサイル、ドローンが飛んできて、いつ自分が、この世の中からいなくなっても仕方がないという死生観、世界観になった。ウクライナに住んでいても世界の他の地域に住んでいても、常に国のことが心配。そういうストレスをみんなが抱えている」
 それは壮絶な訴えだった。
 ダラキアンは、22戦(15KO)無敗の王者で6度の防衛に成功している。2018年2月に同タイトルの王座決定戦で強打のブライアン・ビロリア(米国)に判定勝利してベルトを獲得したが、2022年2月にロシアがウクライナに軍事進攻した影響で、この2年間では1試合しか防衛戦ができていない。
「ウクライナはつらい状況だ。それでも、なんとか練習のできる環境を整えてくれた政府の幹部に、お礼を言いたい。ベルトは必ず国へ持って帰る」
 祖国の平和を祈り、恐怖におののきながら生活をしているウクライナ国民に勇気を与えるためにも、ベルトを死守しなければならない。
 ダラキアンを含め来日したマネージャー、2人のトレーナー、ドクター、アシスタントら陣営の全員が、ユーリの名前と写真がプリントされたTシャツを着ていた。これが世界初挑戦となるユーリへのリスペクトがある。

 

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