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戦火のウクライナからきたWBA世界フライ級王者のダラキアン(写真・山口裕朗)
戦火のウクライナからきたWBA世界フライ級王者のダラキアン(写真・山口裕朗)

「空襲警報が鳴り響きミサイルやドローンが飛び交う」戦火のウクライナから来たWBA世界王者ダラキアンが祖国に届けたい希望と勇気

 当初、昨年11月15日に予定されていた試合がイベントのメインを張る予定だったWBA世界バンタム級王者、井上拓真のケガで延期になったが、ジムの副会長であるドミトリー・エリセエフ氏は、「分析する時間が十分にあった。戦うにふさわしい相手。フルラウンドも想定している、WBA指名試合。やりがいのある試合だ」と説明した。同氏はアマチュアの国際大会で優勝経験のある人物。ダラキアンも「ユーリはいいボクサーだ。私は、どの選手にも敬意をもって接している。私は世界王者としてふさわしい試合をしたい。挑戦者は全力で向かってくる。それをはね返すだけの力を持たないとダメだ」と隙がない。
 無敗も納得の試合巧者。一撃必殺のパンチ力はないが、ジャブを軸に足を使って距離をキープ。どんな体勢からでもパンチが出せて確実にポイントを稼ぐ。相手がインファイトを仕掛けてきても絶妙のクリンチワークでピンチを作らない。ユーリは、「僕はクリンチは苦にしない」と語っていたが、相手を最悪の展開に追い込むスキルがある。13歳からボクシングを始めてアマで220戦207勝という豊富なキャリアがバックボーンにあるから、そのスタイルもしかり。公開練習ではシャドーとミット打ちを軽く披露しただけで終わり、迫力はあるとは言えなかったが、変幻自在な対応力や、その柔軟さは十分に伝わってきた。
 彼には勝たねばならない理由がある。
 記者団とのインタビューで家族への質問が飛ぶと、陣営も本人も「いい質問をしてくれた」と、表情を明るくした。
「4人の子供がいる。13歳、11歳、8歳の娘と、2歳半の息子だ。家族は国の安全な場所で映像で試合を見るだろう。応援してくれている家族からは“チャンピオンベルトを持って帰ってきてね”と言われている。2、3か月の合宿で家に帰れなかった。“早く会いたい。待っているよ”とも言われている」
しかも試合がある1月23日は、母であるマリーナさんの誕生日。
「ベルトを誕生日プレゼントにしたい」とも声をあげた。
 ウクライナを代表するボクサーの一人、五輪2連覇で元3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコは、「(アマチュアの)ジュニア時代からの仲間」。今は連絡をとりあっていないそうだが、共にウクライナに希望を与えるために連携しているという。
 そしてダラキアンは、チャンピオン論について語った。
「決意はいつも変わらない。この状況だからこそ、基本に立ち返る。一番強い者が勝つ。本物のチャンピオンがベルトを持つ。オリンピックの精神と同じだ」
 インタビューの最後に「ちょっといいですか?」と3人は、その場で立ち上がり、ウクライナへの支援を行ってくれている日本の政府、国民と、今回の世界戦を実現させたプロモーターである帝拳の本田明彦会長に深い感謝の意を示した。
 先日の公開スパーで挑戦者のユーリも「ウクライナが大変なのに来てくれること自体がありがたい。尊敬しているし、その思いを全力でぶつけるだけ。いい試合をしたい」と誓っていた。
 感動を与える好ファイトこそが、戦下で苦しむウクライナの人々へ勇気や希望を与えることになるのかもしれない。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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