なぜ“カリスマ”辰吉丈一郎は岡山のジムから初の世界王者ユーリを称え、拳を痛めKOできなかった次男の寿以輝を「無冠じゃ飽きられる。辰吉の名前だけじゃ」と厳しく突き放したのか?
プロボクシングの「PRIME VIDEO PRESENTS LIVEBOXING6」が23日、エディオンアリーナ大阪で行われ、WBA世界フライ級王座戦では、世界初挑戦のユーリ阿久井政悟(28、倉敷守安)が、王者のアルテム・ダラキアン(36、ウクライナ)に3-0判定勝利でベルトを奪取。アンダーカードでは4.5キロ契約の8回戦では辰吉寿以輝(27、大阪帝拳)が日本バンタム級10位の与那覇勇気(33、真正)に2-0判定で勝利した。観戦した父のWBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(53)にとって、岡山県のジムでは初、岡山県人としては自身以来2人目の世界王者誕生という縁があり、ユーリを絶賛、そして拳を痛めてKO決着できなかった次男の寿位輝には対象的にあえて厳しい言葉を送った。
ウクライナ「時は残酷だ」
リングサイドで見守っていたカリスマが感動していた。
無敗の絶対王者であるダラキアンを世界初挑戦となるユーリが、左フックと右ストレートを武器に最初から最後まで前に出続けて追い回して3-0判定勝利で悲願のベルトを手に入れたのだ。
「人間として尊敬のできるチャンピオンに勝てたことがうれしい。欲しかったベルト。勝ってほっとしている」
リング上でユーリは声を枯らし、37年前に“ボクシング不毛の地”岡山にジムを創設した守安竜也会長(70)に、そのベルトを捧げた。ウルフ時光以来、23年ぶり3度目の世界挑戦で、ついに悲願を叶えた。岡山は辰吉の故郷だ。岡山出身の世界王者はユーリが辰吉以来2人目となる。ただ辰吉は大阪に出てきて大阪帝拳に入門した。岡山のジムから誕生した世界王者は初となる。
「守安さんは生きているうちにチャンピオンができてうれしいやろうな」
辰吉が続ける。
「挑戦者らしく前へ出てプレッシャーをかけた。よかった。それをできた阿久井君がええ度胸、ええ根性している。初めての世界戦は怖いもん。カウンターを狙われる恐怖もあった。それをつき飛ばして、プレッシャーをかけてなぎ倒す、突き放す感じやったな」
ダラキアンは下がりながらもパンチを当ててきた。“当て逃げ”のようなパンチが、ジャッジにどう評価されているかが、不気味だったが、蓋をあけてみれば、ジャッジの1人が119―109とつけるなど、3者ともにユーリの攻勢点と手数を評価した。
ユーリ自身は、「クリンチの隙間を与えて時間を使わせない。ちょっとでも隙間があれば打った。それを嫌がった。中間距離のジャブ、左フックはかなり当たった」と、ダラキアンが得意とするクリンチで自由にさせなかったことを勝因のひとつに挙げた。
辰吉が言う。
「練習の賜物やと思う。パートナーもろくにおらんやろうからミット打ち、サンドバック打ちを徹底してやっていたと思うよ。1か月の出稽古?そうか。それが結果としてよかったんやな」
ユーリは、家族と共に12月から東京に移り住み、約1か月間、メインで辛くもベルトを守りきったWBA&WBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(BMB)らとの100ラウンドを超えるスパーリングを消化した。年明けのスパーでは、拳四朗にボコボコにされて6ラウンドの予定が5ラウンドで途中ストップ。だが、ユーリは、拳四朗にやられた教訓を力に変えた。
戦火のウクライナからやってきたダラキアンは「負けたと思った。判定に文句はない。ユーリは若かった。時は残酷だ」と潔く負けを認めた。陣営はキーウからワルシャワに18時間の車移動があり、「年齢的に回復に時間がかかった」と王者をかばった。