なぜ青森山田高の“守護神”鈴木将永はPK戦で2発を止めることができたのか…背景にあった異色のルーティン…8日に近江と決勝
第102回全国高校サッカー選手権の準決勝2試合が6日に国立競技場で行われ、青森山田(青森)が1-1から突入したPK戦を4-2で制して市立船橋(千葉)を退け、2大会ぶり4度目の優勝へ王手をかけた。守護神の鈴木将永(しょうえい、3年)が、ゴールの隅に片膝をついて座った後に相手キッカーと対峙する、異色のルーティーンから1番手と4番手のPKを弾き返してヒーローになった。同じく国立競技場で行われる8日の決勝で、初優勝を目指す近江(滋賀)と激突する。
「冷静さを保てれば必ず止める自信がある」
静寂に支配された国立競技場に奇妙な光景が生まれた。
前後半の90分間で1-1のまま決着がつかず、もつれ込んだPK戦。後蹴りの市立船橋の1番手、キャプテンのMF太田隼剛(3年)がペナルティースポットにボールをセットする。しかし、12ヤード(約10.97m)先のゴールライン上に誰もいない。そのとき、青森山田の守護神・鈴木はゴール内、それも右隅に片膝をついた体勢で座っていた。
PK戦で相手キッカーと対峙する上で、2年生のときから実践している独自の、そして他のキーパーとは一線を画す異色のルーティーンだと鈴木が説明する。
「自分が落ち着いてPK戦に入るための準備です。深い意味があるわけではないんですけど、冷静さを保てれば必ずPKを止められる自信があるので」
もっとも、ルーティーンはこれで終わらない。
ゆっくりと立ち上がってゴールライン上へ移動すると、まずは両腕を天へ広げる。身長189cm体重83kgの体をひときわ大きく見せた直後に、今度は自分の前で両手を2度ゆっくりと叩く。さらに主審のホイッスルをはさんで、腹の底から大声を発する。
「来い!」
鳴り物を一時中断した両校の応援団を含めて、スタンドは固唾をのんで見守っている。ゆえにキーパーグローブを叩く音と鈴木の声が聖地に響きわたる。ただ、太田もすぐには蹴らない。そのままにらみ合うこと実に19秒。太田の左足から放たれた強烈な弾道がゴール左を襲った直後に、コースを完璧に読んでダイブした鈴木が両手で弾き返した。
「どんなに時間をかけられたとしても、落ち着いた状態で自分を保っていればいい。なので、自分としては特に気にしていませんでした」
心理戦を仕掛けられても、思考回路は絶対に乱されない。ルーティーンを介して“無”になっていたと明かした鈴木は、相手の4番手、MF岡部タリクカナイ颯斗(2年)が約13秒の間を置いて放ったPKも、今度は右へダイブして両手でストップした。
直前にDF小林拓斗(3年)のPKが止められ、岡部に決められれば追いつかれる大ピンチで事もなげに止め返した。続く5番手のFW米谷壮史(3年)の一撃がゴール左隅に突き刺さった瞬間、青森山田の2大会ぶり7度目の決勝進出が決まった。
「あと1本は止められる、という感覚がありました。なので、別に焦りもなく、自分が止めればいいと思いながら、最後も落ち着いてできました」