井上尚弥らが青木真也の問題投稿に反論…亡くなった穴口一輝の日本王座戦が「年間最高試合」に選ばれたのは美談なんかではない
プロボクシングの年間表彰は、JBC、日本プロボクシング協会、運動記者クラブのボクシング分科会が、厳正な投票を行った上で選考するもので2023年の年間最高試合は、世界戦では、井上の転級初戦となったスティーブン・フルトン戦、世界戦以外では、この穴口―堤戦が選ばれた。たまたま2日が、その選考、発表日であり、穴口の意識が戻らず予断の許さない状況は続いていたが、「内臓に負担が出始めているのは心配だが、一時の危険な状態からは持ち直している」と報告されており、シンプルに試合内容が年間最高試合として多数の支持、評価を受けただけだった。また勝者の堤は努力・敢闘賞に選出されている。穴口が亡くなったから、この試合を美談に仕立てようなどという意図はまったくなく、井上も、時系列として悲報が届く前に年間最高試合が決定していたことを伝えることで、青木の認識不足を正したのだ。
だが、その井上の投稿に対して、青木は「格闘競技全体で安全管理の徹底と競技自体(ルール)を疑うことが安全と競技存続に大事。お気持ち表明と美談で済ませてはいけない話です。人が死んでますからね」と返した。
その投稿を受けて井上は、「誰が間違っているとかそう言う話では決してなく今回の受賞についての誤解がありそうなので受賞の意味を時系列でお伝えさせていただきました」と、追加説明した。
青木の競技に安全性を求める声は理解できる。だが、そこにはいくつかの認識不足がある。過去のリング禍を経てJBCや協会などが、事故の再発防止にどれほどの尽力を重ねてきたかを周知しているのだろうか。
ボクシングは、そもそも相手にダメージを与える競技であり、身体への危険を伴う。英国などでは長らく廃止論が議論されている。だが、プロ競技として成立させるため、安全管理については、細心の注意が払われ、そのためにスキルや基礎体力の有無を推しはかるプロテストがあり、各種のライセンス制度があり、試合に関しては、MRI検査などの事故を未然に防ぐためのチェック機能が幾重にも施されており、計量時には、必ず医師の検診が入る。また過去に起きたリング禍の反省から、試合中には両コーナーにインスペクターが配置され、インターバル中の様子に異変がないか、ダメージの危機的な蓄積がないかをチェックするようになっている。今回は最終ラウンドまでラウンド間にはなんら異常は見られなかった。
山下会長によると、試合までのスパーなどの練習時にも、特段、変わった様子はなかったという。試合終了後に異変が生じ、控え室まではスタッフの肩を借りて、自力で歩いて帰ったが、その後、医務室で意識を失ったことから、最終ラウンドに何らかの脳への強いダメージが起きた可能性があるのかもしれない。すぐさま病院に救急搬送され、JBCの手配で病院では脳外科医が2人スタンバイしており、すぐに脳圧を下げる開頭手術が行われ、措置としては万全の治療が施された。関係者は「試合を途中で止めるための兆候が何もなく、試合の運営、管理に明白なミスは何も見当たらなかった」という。その試合運営の中で実施された名勝負を年間最高試合と表彰することに何の問題があるのか。百歩譲って、明らかな運営ミスがあり、未然に事故を防ぐ何かを見過ごしていた試合であれば、その試合を年間最高試合とすることに問題はあるのかもしれない。だが、プロのタイトル戦として成立した試合を「事故が起きたから評価対象から外す」「それを評価対象にしているから安全への認識が低い」という青木の断じ方は間違っている。