井上尚弥らが青木真也の問題投稿に反論…亡くなった穴口一輝の日本王座戦が「年間最高試合」に選ばれたのは美談なんかではない
また青木に指摘されるまでもなくJBCは、すでに今回の試合に関する検証作業をスタートしており、今後、関係者のヒアリングなどを行い、再発防止策を見直す考えであることを明かしている。
他分野の格闘家にボクシング技術を指導してきたことで知られるJBスポーツの山田武士トレーナーが「俺達ボクシング界は、コミッションと協会もある。本当に日々、ボクシング界発展のために尽力してくれている。 安全面に関しては、常に協会やコミッションで議論してる。美談で済ませようとは思ってない。 団体でルールも違う、誰でも出れるコミッションもない格闘技とは、雲泥の差がある」と投稿した。
それに対して青木は「山田さん。お久しぶりです。ボクシングと格闘技の比較にはしていないですよ。ダメージを与え合う格闘技競技が社会で認められていることが奇跡であって、この状況が続くためにも安全を考えなくてはいけないって話です」と返したが、山田氏が言いたかったのは、ボクシング界と格闘技界の比較論ではない。いかにボクシング界が、安全管理に対して真摯に向きあい、常にアップデートしながら、JBCという統括組織が厳重に管理、運営をしているかを伝えたかっただけだろう。
繰り返すが人の健康に危害を加えることが前提にある競技の是非論は、長らく英国などで議論になっている。だが、伝統と歴史のあるプロボクシング競技の存在の是非を、今、穴口の事故をフックに語る必要があるのだろうか。ルールに従い、相手を倒す、つまり相手にダメージを与えるためにスキルを駆使して、魂を振り絞った穴口と堤の戦いに対する「年間最高試合」の評価に疑問符をつけることは、穴口の名誉や尊厳を傷つける行為だと言っていい。
ましてアジア最大級の格闘団体であるONEを舞台に活躍している有名格闘家とはいえ、ボクシング界の元世界王者でもレジェンドでも何もなく、門外漢の青木が、関係者から寄せられる追悼の声や、年間最高試合の表彰をこのタイミングで批判することはいかがなものか。ボクシング界の安全管轄にかかわる関係者や、現役、元ボクサーの中で「お気持ち表明と美談で済まそう」と考えている人間は一人もいない。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)