年間表彰を受けたメンバー。左から堤、寺地拳四朗、井上尚弥、晝田瑞希、那須川天心(写真・山口裕朗)
なぜ井上尚弥はMVP授賞式で亡くなった穴口一輝氏の年間最高試合を「ファンの心の中で生き続け輝き続ける」と称えたのか?
堤も、あの試合から、1か月の間、苦しんだ。だが、自らがリングに立つ理由を問うなかで心の整理をつけた。
「覚悟してボクシングをしている。試合前には僕がこれで終わるかもしれない、それを考えている。試合後の(穴口氏の)意識がない話を聞いたときから、回復を願っていたが、(そういう)覚悟もあった。ショックですが、1か月時間がある中で考えはまとまっていった。ただ(穴口氏の)家族の事を思うと何も言葉がでない。まだ何も僕は言えない」
そう言って絶句した。
残されたものには、志半ばで、この世を去った穴口氏の意思を継ぐという責任がのしかかる。そして堤のボクシング人生はこれからも続くのだ。
「あの試合は誇りに思っている。彼に問わず、これまで戦ってきた人…人生の潰し合いと思ってボクシングをやっているから。戦ってきた人たちへの思いはある。(穴口氏には)よりその思いは強い。拳に彼らの思いが乗っている。すべてを覚悟した上で、今後とも自分のスタイルのボクシングを皆さんに見せていきたい。世界は必ず取ります」
堤は前を向きそう誓った。
世界戦への準備として日本王座を返上した。バンタム級は、24日にWBA王者の井上拓真(大橋)が防衛戦を行い、元2階級制覇王者の中谷潤人(M.T)がWBC王者に挑戦するなど、日本人が主役となっている階級で、今後、堤にもチャンスは巡ってくるだろう。人々の心に永遠に刻まれる年間最高試合。その思いを拳に乗せて戦い続ける堤のファイトを穴口氏は天国から見守っている。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)