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井上拓真が9回にボディショットで最強挑戦者のアンカハスを沈める(写真・山口裕朗)
井上拓真が9回にボディショットで最強挑戦者のアンカハスを沈める(写真・山口裕朗)

「今日に限っては兄の尚弥を超えたと言っていいですかね?」なぜ井上拓真は“最強挑戦者”に9回KO勝利できたのか…覚醒の理由

 新しい井上拓真に生まれ変わるには何かを変えねばならなかった。
「自分のスタイルに足りないものを取り入れ山場を作りたかった。井上拓真のボクシングを完成させるには、アウトボクシングだけじゃなく、引き出しを増やして、その中にどう攻撃的部分を入れていくか。これまで打ち合いはそんなにない。今回、強い相手に打ち合いができている楽しさがあった」
 その答えが超攻撃的なボクシングへの転身だった。
 拓真は序盤からアンカハスのアグレッシブな突進にスピードで対抗した。ジャッジの一人は、4ラウンドまで38-38の5分の採点をつけていたが、右のカウンターを要所で決め、5ラウンドからはペースをつかんだ。コーナーに追い詰められてもポジションを変えて的を絞らせない。豊富なキャリアを誇るアンカハスは、中間距離のボクシングでは勝ち目がないと判断したのだろう。7ラウンドからは強引に前に出てボディを乱打、インファイトの激しい打撃戦を仕掛けてきた。だが、拓真は一歩も引かなかった。
「前に出てくることは想定していた。足を使ってポイントアウトもできたが、それをやっちゃうと、いつものつまんないボクシングになる。耐えられるダメージだったし、どちらが我慢強いかの勝負かなと思っていた」
 くっついた時のボディ攻撃の重要性は、父の真吾トレーナーから「耳にタコができるほど言われて徹底していた」という。
 本来は、昨年の11月15日に予定されていたタイトルマッチが、10月下旬にスパーリングで肋骨を骨折したため3か月延期になった。実は海外から呼んでいたパートナーのボディショットを何かの悪いタイミングで打たれたアクシデントで骨折したわけではなかった。ボディを肘でディフェンスしていた際に、その上から打たれたパンチのダメージの蓄積で自らの肘が当たって肋骨を痛めてしまったのである。アンカハスの戦法を想定した上で、それほど激しい接近戦でのボディの応酬をスパーの中で行っていたのである。最強相手への不安を打ち消したのも、そのハードな練習でつかんだ自信だった。
「スタミナを削る作戦の中での一発。狙ったというより流れのなかで出たパンチ」
 みぞおちをピンポイントで2発撃ち抜いた。
 試合後、会見に応じたアンカハスは、「あの一発がすべてだった。腹の中央部を打たれ、思ったより効いた。私のキャリアの中で初めて完璧なタイミングで打たれた。今日に関しては彼が強かった。試合前に見たビデオに比べて進化していたと思う」と敗戦を受け止めた。
 リング上で何度も抱き合った兄の尚弥も興奮していた。
「変わりましたね。感動しました」

 

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