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田中恒成が3-0判定勝利で史上最速の4階級制覇に成功した(写真・山口裕朗)
田中恒成が3-0判定勝利で史上最速の4階級制覇に成功した(写真・山口裕朗)

東京五輪銅メダリストの兄が語る田中恒成の史上最速4階級制覇の真実

 プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級王座決定戦が24日、両国国技館で行われ、同級1位の田中恒成(28、畑中)が同級2位のクリスチャン・バカセグア(26、メキシコ)から8ラウンドにダウンを奪うなど3-0(119―108、117―110、116―111)判定で勝利し史上3人目の4階級制覇に成功した。WBA世界同級王者の井岡一翔(34、志成)、スーパーバンタムの4団体統一王者の井上尚弥(30、大橋)に次ぐ快挙だが、21戦目にしての4階級制覇は、史上最速記録。兄で東京五輪のフライ級銅メダリストである亮明氏(30、中京高)に知られざる4階級制覇達成の裏話を聞いた。

 

東京五輪銅メダリストの兄の亮明氏がリングサイドから見守った(写真・山口裕朗)

 大人のボクシングになった

 ラスベガスから来た名アナウンサーのジミー・レノン・ジュニア氏から勝ち名乗りを受けた田中は、優しい笑顔を浮かべて左手を掲げた。ジャッジの1人が119―108のスコアをつけたが、1ラウンドから最終ラウンドまで田中がほぼ一方的に支配しての3-0完勝。3年2か月ぶりに腰に巻いた世界ベルトを「これが欲しかったので嬉しいです」と語ったが、「KOで勝ちたかった」も本音だろう。
「思っていた通りというか、思っていた以上に打たれ強かった。一発より、コツコツとダメージを重ね、好きに打たせないことでメンタルを削りたかったが、後半は削り方がうまくいかなかった。こんなもんじゃ誰も納得いかないと思う」
 メキシコのロッキーの異名を持つバカセグアはKO負けがないことで知られるタフファイター。田中は、アッパーや、カウンターの右ストレート、山のようにボディブローを食らわせたが、バカセグアをキャンバスに沈めることはできなかった。
 それでも新しい田中恒成を披露した。
「最初からパンチを見切れた。ディフェンスから試合を組み立てた」
 バックステップ、ブロック、ボディワークというディフェンススキルを駆使しながら「好きに打たせない」ボクシングでコントロールした。
 ハイライトは8ラウンド。左のボディブローにタフなメキシコ人が腰を折った。そこにワンツーのラッシュ。バカセグアは、たまらず体を預けにきて、もつれた際に手を着いた。レフェリーはダウンを宣告してカウントを数えた。結局、仕留めきれなかったが、田中は、12ラウンドの中で、12通りのボクシングでバカセグアを追い詰めていた。
「途中、ボディが効いたのでボディを狙う。それでも倒れないので、今度は、細かく上を打ってからボディにいくことをした。それでも打たれ強く、うまくガードをされてきたので、細かいパンチを顔面に集めて、ダメージを重ねていくことをした。そのペースに慣れてしまわれると、足を使って変化を付けた。選択肢がたくさん出たのが成長だと思う」
 冷静に試合を分析した。 
 リングサイドには、兄の亮明氏の姿があった。3年前の東京五輪フライ級銅メダリスト。ここ両国国技館がボクシング会場で、思い出の場所で弟が4階級制覇を達成したのもどこか運命的だ。
 亮明氏は、開口一番、「いやあ。倒して欲しかったですね、やっぱり」と、一方的に追い詰めながら、フィニッシュにもっていけなかった展開への不満を口にした。
「でも弟なんでね。世界チャンプじゃない期間が長すぎた。なんとしても勝って欲しかった。相手が消耗していた場面もあったんで、欲を言えば倒して欲しかったけれど」
 そして兄は、弟の成長を見逃さなかった。
「いい意味でも悪い意味でも落ち着いてボクシングができるようになった。大人になった。昔のあいつだったら、もらっても倒しにいくシーンを作っていた。そこが大人になった。僕はトレーナーでもないので派手に倒して欲しいと思うけど、勝つのが、チームとして一番。そこが成長したところではないですか」
 兄は「大人のボクシング」という表現をした。

 

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