なでしこJに敗れて五輪切符逃した北朝鮮の監督が回答拒否、判定不満、そして号泣、拍手…衝撃の試合後会見の一部始終
一刻も早く会見場から立ち去りたかったからか。リ監督は質疑応答を3問だけで切り上げたいと要望していた。司会者が「もう1問だけ、最後にお願いできますか」とリクエストすると、指揮官は自ら質問者を指名する異例の行動に出た。
最後の質問者として指名された、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央常任委員会の機関紙『朝鮮新報』の男性記者は、アウェイ側のゴール裏を真っ赤に染めた約3000人だけでなく、日本中で応援した在日朝鮮人の同胞たちへの思いを聞いた。
しかし、リ監督は即答できなかった。不意に言葉を途切れさせた原因は、こみ上げてくる涙を必死にこらえていたからだった。
「日本全国から私どもに声援を送ってくださった、同胞のサポーターのみなさまにいい結果をもたらすことができず、大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。これからさらにプレーを、いい試合をお見せできるように努力をしてまいりたい」
声を絞り出し、最後は号泣したリ監督の言葉が日本語に訳される前から、会見場には拍手が湧き起こった。異様な雰囲気が漂うなかで通訳が日本語訳を伝えると、今度は日本メディアから拍手が起こったなかで10分あまりの会見は終わった。
今夏のパリ五輪出場をかけた女子サッカーのアジア最終予選は、日本と北朝鮮、オーストラリアとウズベキスタンがホーム&アウェイ方式でそれぞれ対戦。2戦の合計スコアの勝者がパリ行きの切符を獲得するシステムが取られている。そして、24日の第1戦の試合会場は昨年末の段階で、北朝鮮の首都・平壌に一度は決まっていた。
しかし、今月に入ってアジアサッカー連盟(AFC)が、平壌ではなく第三国での開催を検討してほしいと北朝鮮側に通告。一転して未定となった会場がサウジアラビアのジッダに決まったのは、試合3日前の21日という慌ただしさだった。
日本サッカー協会の佐々木則夫女子委員長(65)は、ジッダ開催決定までの前代未聞の経緯に対して、現時点でもAFCと北朝鮮側から「明確な説明はない」と苦笑する。
気温が30度を超えたジッダで、スコアレスドローを演じてから4日。ゴール裏を埋めるサポーターの数で日本が後塵を拝するのでは、と一時は危惧された状況も回避され、全体では2万人を超える観客が見守るなかで繰り広げられた死闘の末に、なでしこジャパンが2大会連続6度目、自力では3大会ぶりとなる五輪切符を獲得した。
(文責・藤江直人/スポーツライター)