F1開幕戦で起きたRB角田裕毅とリカルドの“内紛問題”は一体誰が悪かったのか…繰り返される失態と背景にある政治的権力争い
F1の2024年の開幕戦であるバーレーンGPでは、ポイント圏外のある戦いに注目が集まった。14位に終わったビザ・キャッシュアップRBの角田裕毅(23)と13位だったダニエル・リカルド(34)のチーム内の戦いだ。レース途中の順位入れ替えの指示に不満を抱いた角田が、フィニッシュ後のクールダウンラップでリカルドに“超接近”する不穏な行動をとったことなどもあり一触即発の“内紛”ムードが漂った。誰に責任があり、問題の背景には何があるのか。
順位入れ替えを指示したチームオーダーの失敗
レース終盤、13番手を走行していた角田にチームメートのリカルドが追いつくと、チームは、2人のポジションを入れ替えるよう無線で指示を出した。モータースポーツでは、これを「チームオーダー」という。
だが、角田は、その指示に「冗談だろ? 今?」と明らかに不満な態度を示し、次の周でリカルドを先行させた後には、「みんなありがとう。感謝するよ」と皮肉をこめたメッセージを無線でチームに返した。
さらにポジションを譲ったチームメートが結局、その前を走っていたハースのケビン・マグヌッセンをオーバーテイクできずにいると、角田は「彼(リカルド)は全然速くないじゃないか。もっとペースを上げてくれないと困るよ」とチームの判断に疑問を呈した。
角田の怒りは筋が通っていたのか。
まずチームの判断が正しかったのかどうかだ。結論から言えば、リカルドは13位で結果は変わらなかったわけだから、間違っていたことになる。チームは「トライする価値はあった」というが、そこには疑問が残る。
ビザ・キャッシュアップRBのCEOを務めるピーター・バイエルはこう語る。 「レース前に2台が異なる戦略で戦うため、状況によってはチームオーダーを出すことは伝えていた」
確かにレース終盤に角田は硬めのハードタイヤを履き、リカルドはソフトタイヤを履いていた。角田の前を走るドライバーの3位以下は、皆ハードタイヤであることから、チームは同じタイヤで抜きあぐねていた角田に代わって、ソフトタイヤを履くリカルドにかけたというわけだ。
ただし、そのタイミングはあまりに遅すぎた。チームが角田にチームオーダーを出したのは51周目。この時点で10番手のランス・ストロール(アストンマーティン)からビザ・キャッシュアップRB勢の2台は、約10秒遅れていた。
バーレーンGPは57周のレースだから、51周目に角田がポジションを譲っても、残りは6周。6周で3台を抜くほどのペースではないことはリカルドが角田を抜きあぐねていたことから容易に判断できた。そのことは、レースをしている角田が誰よりも感じていたはずだ。だからこそ角田は、「冗談だろ? 今?」と驚いたのだろう。
さらに今回、角田がここまで怒りを露わにしていたのは、このような謎の戦略で角田がチームメートに対して遅れをとるのが、これが初めてではないからだ。
リカルドがチームに加入した昨年のハンガリーGPでは、角田の2回目のピットストップがあまりにも遅すぎて、リカルドの後塵を拝する結果となった。レース後、角田は「何をやりたかったのか、まったくわからなかったです」と声を震わせた。
昨年の日本GPでも、2回目のピットストップを引っ張りすぎて、チームメートのリアム・ローソンの後塵を拝することとなり、「かなり引っ張りすぎて、なんのメリハリもない、よくわからないストラテジーでした」と、角田はチームの戦略に疑問を呈していた。
そして、今回、またしてもチームの不可解な戦略で角田はチームメートの後ろに回された。そこにチーム内での政治的な権力争いを感じてしまうのは、当然だろう。なぜなら、このチームメート同士の戦いは、2025年のシート争いに大きく影響しているからだ。
したがって、ビザ・キャッシュアップRBの戦闘力が、今後、上がれば上がるほど、再び内紛が勃発する可能性は十分考えられる。開幕第二戦となるサウジアラビアGPのフリー走行は7日から現地でスタートする。
(文責・尾張正博/モータージャーナリスト)