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1ラウンドに井上がダウンを喫するまさかのシーンが(写真・山口裕朗)
1ラウンドに井上がダウンを喫するまさかのシーンが(写真・山口裕朗)

“倒され倒した”井上尚弥に一体何があったのか…ネリとの東京ドーム決戦舞台裏…まさかのダウンから6回TKO勝利した理由とは?

 4ラウンドには、なんと横を向いて、右手で「ここを狙ってみな!」とばかりに自分の顎をちょんちょんと触り、左手で「来い!」と挑発するパフォーマンス。ネリがあっけに取られていると、そこに右ストレートから左ボディのコンビネーションをぶちこみ、今度は正面で「ここだよ、ここ!」とまた顎を指さしてノーガード。不敵な笑みを浮かべた。
 会場のボルテージがまた一段と上がった。
 井上は、サービス精神満点のパフォーマンスにこめられた意図をこう説明した。
「見切ったというのもそうだけど、試合を通して主導権を握っていくために気持ちで上回っていかなくちゃいけない。そこは駆け引き、そういう意味でやった」
 そして5ラウンドだ。ワンツーを次々とヒットされ、いらついたネリが頭から突っ込んできた。明らかな故意バッティング。たまらず井上はレフェリーに抗議した。そしてわざとロープを背負い、反則技も使えなくなったネリを誘いだして、左フック、体を沈めて、もう一度、左フック。ネリはヒザからダウンした。
 もうフィニッシュは近づいていた。6ラウンドにコーナーにつめると左ジャブから右アッパー、右ストレートのコンビネーションブローがドスン。腰から落ちたネリは、ロープから頭がはみ出すほどのダメージを受けて立ち上がれなかった。レフェリーがTKOを宣告する前に勝利を確信した井上はコーナーに駆け上がり雄叫びをあげた。観衆の全員が立ち上がった。そして、ナオヤ、ナオヤの大コール。筋書きがあったような余りにもドラマチックな東京ドームのフィナーレだった。
「あのダウンがあってこそ、こういう戦い方ができた。自分の中でも激闘という試合を見せられた。最終的にはKOして勝つことができたので、これでまた一つキャリアを築けたのかなと思う」
 ネリは、すぐに井上の元に駆け寄り勝利を祝福。井上のリング上での勝利者インタビューも紳士的な態度で聞き、その途中、井上が感謝の気持ちを伝えると2人はガッチリと握手をした。
「6年前の(山中氏との)第2戦は会場(両国国技館)で観戦していたのでファンの気持ちはしっかりと自分の中で受け止めていた。でも、ここ東京ドームでの戦いは井上尚弥VSルイス・ネリ。自分はこの戦いに集中することを心掛けてきた。勝った瞬間は、ネリに感謝という気持ちで、握手を求めた」
 予想通りに大ブーイングで迎えられた“悪童”が、勇気ある挑戦者として井上家、そして日本のファンに認められた瞬間でもあった。
 実は曲がったことが大嫌いな井上家の中でネリは「絶対に戦わないボクサー」のリストに入っていた。だが、井上が4団体を統一しネリがWBCの指名挑戦権を獲得したことで話が変わってきた。真吾トレーナーはネリ戦を受ける条件として「ルール違反をしないこと」を大橋会長にお願いした。今回、大橋会長が「1ポンドでもオーバーしたら試合はしない」と公言し、その場合の予備選手として、元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)のカードを組んだことも、計量前日まで、5回も抜き打ちのドーピング検査を行うなど厳格な体勢を敷いたのも、すべて井上家の意向をくんでのものだった。

 

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