なぜ欧州トップリーグでプレー経験のある浦和レッズ主将の酒井宏樹は無名のニュージーランドのクラブへの移籍を決断したのか?
もちろん浦和での情熱やモチベーションを失ったわけではない。ノルウェー出身のペア=マティアス・ヘグモ新監督(64)のもと、昨シーズンに続いてキャプテンを拝命し、新たな一歩を踏み出した浦和をピッチ内外でけん引してきた。
しかし、年齢を重ねるとともに怪我による戦線離脱も目立つようになった。昨年11月に右膝半月板を損傷して手術を受けて、全治約3カ月と診断された。このときは約1カ月半で復帰し、FIFAクラブW杯のピッチにも立ったが、今年4月にも右膝の骨挫傷で離脱。チーム合流まで約1カ月半の時間を要した。
しかも、今シーズンに湘南ベルマーレから加入したDF石原広教(25)が、酒井の抜けた右サイドバックで台頭した。こうした状況もあって、復帰後もすべて途中出場で4試合、もっとも長いプレー時間でも26分にとどまっていた。
思うように浦和の戦力になれなかった状況で、オークランドFCからオファーが届いた。ニュージーランドで産声をあげた新興クラブは、今秋に開幕予定の2024-25シーズンへ向けて、3大会連続でW杯に出場し、マルセイユでUEFAチャンピオンズリーグを戦い、浦和でACLも制した酒井を中心選手の一人としてすえていた。
浦和を束ねるキャプテンとしての責任感と、ベテランに差しかかった一人の選手のキャリア。2つの間で揺れたなかで、最終的にはゼロからはじまるオークランドFCでの挑戦を新たなモチベーションに変えた酒井は、リリースをこう締めている。
「自分のおもいを理解し尊重してくれたクラブに感謝しています。そして何よりもこの3年間、自分に愛情を注いでくれた浦和レッズに関わる全てのみなさんには感謝しかありません。本当にありがとうございました」
浦和を離脱した酒井は自身のインスタグラムを更新して、リリースと同じ文章を投稿した。フォロワーから寄せられた激励コメントのなかには、日本代表や浦和で同じ時間を共有してきたMF山口蛍(33、ヴィッセル神戸)やFW武藤嘉紀(31、同)、FWキャスパー・ユンカー(30、名古屋グランパス)らのエールも含まれている。
(文責・藤江直人/スポーツライター)