「10秒0台か9秒台でないと勝負にならない」男子100mで東京五輪代表組の惨敗続く異例事態の中で桐生祥秀は3大会連続の五輪キップをつかめるのか?
パリ五輪代表選考会を兼ねた日本陸上選手権の3日目が29日、新潟のデンカビッグスワンスタジアムで行われ、男子100mの予選と準決勝が注目を集めた。ヒートアップした戦いの中で大きな拍手を浴びたのが3大会連続の五輪出場を目指す元日本記録保持者の桐生祥秀(28、日本生命)だった。
今日決勝!現状は“代表圏外”だが…
桐生は予選2組に出場すると、今季ベストの10秒21(+0.3)の1着でフィニッシュ。〝完全復活〟を感じさせるよう勢いのある走りを披露した。準決勝(3組)はデーデー・ブルーノ(セイコー)に先着を許したが、今季ベストをさらに更新する10秒20(+0.1)で2着に入り、決勝進出を決めた。そしてレース後の桐生はいつになく晴れやかな表情だった。
「今日は息子が運動会だったので『パパ、一番になって帰ってくる』と言っていたんです。子どもが運動会で頑張っているなかで、大人が大きい運動会で頑張ろうかなという気持ちでやっていました」と報道陣を笑顔にすると、「今日はどこも痛いところがないですし、体調も不良ない。こんな状態は今季初でした。ワクワクしながらアップをしてワクワクしながら予選と準決勝を走ったんです」と自身の状況を説明した。
今季は1月末の室内60mで6秒53の日本新記録(当時)を出して、絶好の滑り出しを見せた。しかし、4月は中国でダイヤモンドリーグを連戦するも、ともに10秒3台と振るわない。4~5月は体調不良が続き、「陸上を始めてから一番しんどい」というくらい苦悩の日々が続いた。6月2日の布勢スプリントも追い風参考の10秒19(+2.8)で7
位に沈んでいる。
その間にワールドランキングの順位は下降。パリ五輪への道は厳しくなっていた。それでも桐生の目は輝きを失っていなかった。パリ五輪への〝最終トライアル〟に体調をバッチリ合わせてきたのだ。
「布施スプリントを走ったときは違和感がありました。筋肉痛もこないし、走った感じもしなかったんです。でも今日はしっかりといい張りを持ちながら、レース2本を終えることができました。この3週間、体調不良なくこられたのが、一番うれしい。体調が悪いと、気持ちも乗らないし、アップのときから疲れている。こんな状態が今季は続いていましたが、今日はワクワクした感じで走ることができました。準決勝は2着でしたけど、こうやれば明日はいけるんじゃないかという手応えもあったんです」
果たして桐生はパリ五輪代表に手が届くのか。
男子100mの日本代表はサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)が内定済で、残りは最大2枠だ。東京五輪代表の小池祐貴(住友電工)は準決勝で敗退。同種目代表の山縣亮太(セイコー)と多田修平(住友電工)はいずれも故障で五輪出場を断念しており、東京五輪代表の3選手が全滅した形になった。ともに戦ってきたライバルたちの苦しみを誰よりも理解している桐生は特別な思いを持っている。
「パリ五輪代表の権利を獲得する大会に出られなかった選手がいるなかで、自分はどこも悪くない状態でピッチに立てている。ここからパリを見つめて、明日想像しながらイメージしながら走りたいと思います」