「バレーの石川祐希には負けたくない」パリ五輪ボクシング代表の岡澤セオンが中央大の同級生ライバルとの金メダル競演を誓う…「彼は見えない努力をしている」
「あの時は勢いの中で絶対金メダルを獲ると言っていたけれど、今回は、周りも、自分も獲れるものだと思っていて、全然違う。気負っていない」
東京のリベンジを果たす重要なポイントは「ピーキング」だという。
「僕が負けた東京五輪の金メダリストも、その次の世界選手権ではコロッと負けていた。あの五輪の2週間にコンディションを最高にもっていった選手が金メダルを獲れるんです」
特に最大10キロを行う減量の成否がカギを握る。これまでは試合直前の水抜きで対応してきたが、今回は、2か月前から「暴飲暴食をやめて」禁酒を貫いて節制。すでにリミットまで残り1、2キロとなっている。金メダル獲りへの準備は着々だ。
アマチュア界のフロイド・メイウェザーと呼ばれるほど、相手にパンチを打たれずにポイントを奪う究極のアウトボクシングがセオンの武器である。
「僕のボクシングは相手が考えれば考えるほどドツボにはまるんです。再戦では負けない。『どうしよう』と考える1秒がありがたい。大学時代には『あいつのボクシングじゃ(世界で)勝てない』と言われて評価されない時期もあったが、このスタイルをやめないで、ここまできた。このボクシングがどこまで通用するか。自分の息子のように可愛いこのボクシングと一緒に金メダルを獲りたい」
だが、そのスタイルが、ぶれた時期がある。
2022年3月にパリ五輪の階級が変更となり、セオンが世界選手権で優勝した67キロ級がなくなり、71キロ級に転級することになった。セオンは「もっと前で強く打たないと通用しない」と、フィジカルを強化し、足を止めて打ち合うスタイルへの変貌を試みた。だが、連覇を狙った2023年5月の世界選手権では、3回戦で敗れた。
約1時間後。失意のセオンのもとに1本の国際電話がかかってきた。東京五輪のフライ級銅メダリストの田中亮明からだった。
「なんでアウトボクシングをやめたんだ?お前のスタイルはそれとは違う。アウトボクシングをせずに前に出ても怖くない」
セオンの心に響いた。
「もっと優しくしてくれてもいいと思ったけれど(笑)。あそこでハッキリと言われたことが、大きな転機となった」
荒竹コーチからも「もう1回足を使おう。原点に戻って、走り込みしよう」とのアドバイスをもらい、スタイルを元に戻すことを決断。海外修行を重ね、10月のアジア大会で金メダルを獲得して五輪出場を決めた。
「前よりパワーも上がっていいパンチを打てるようになった。今考えると、あのぶれた時期があってよかった」
迷い、遠回りはしたが、パリ五輪に向けてセオンは間違いなく強くなった。