「100回やって1回勝てるかどうか」井上尚弥の助言届かず敗戦も“親友”山口聖矢がダウン応酬の“魂ファイト”で聖地を沸かせる
試合中には井上尚弥が山口に送る「もっと中へ入れ」「ジャブに右を合わせろ」とのアドバイスがハッキリ耳に入ってきたという。
「モンスターの声が聞こえた。『その通りだ、アドバイスは的確だよな、頼むから、言うのはやめてくれ』と思っていました」
勝者の本多はそう言って苦笑いを浮かべていた。
遅咲きのプロボクサーである。井上尚弥とは通っていた幼稚園が同じで、家族ぐるみで交友を続けてきた幼なじみ。井上尚弥は ボクシング、山口は サッカーの道へ進み、地域リーグのサウルコス福井からSC相模原でJリーガーになった。だが、J1ではプレーできず、2018年シーズンを最後に25歳で引退。実家が経営している自動車整備工場で働いていたが、紋々とした日々が続き、井上からもらった「 ボクシングをやってみたら」という意外な言葉で一念発起。28歳にしてボクシングの世界へ足を踏み入れた。昨年8月のプロデビュー戦、5月16日の新人王戦と2戦2勝していたが、プロの世界は甘くなかった。
初黒星にも辞めるつもりなどない。
「この負けをプラスにしていかないとやっている意味がない。ただつまんない試合をするよりはよかった。戦うこと。気持ちは見せられた。まだボクシングをやって3年。自分で言うのもなんですが、伸びしろはあるかなと。今後に向けてプラスになった負け」
課題のガードは、改善されていた。そして何よりプロボクサーとして最も大切なファイトする強いメンタルが山口にはある。ボディワークを使ってのディフェンスの連動や、ワンパターンの攻撃のバリエーションを増やすことなど課題は多いが、そこが山口の自覚する伸びしろの部分でもある。
リベンジの場は、まだ出場権利が残っている来年の新人王戦への再チャレンジだ。
「(新人王は)取りたいですね。やるからにはもう負けたくない。今回の相手との試合がひとつの目安になった。これをどう次につなげるかは自分次第。練習するしかない」
途中で痛めてドス黒く腫れた右の拳をアイシングしていた山口は、世界の頂点にいる親友と同じ目をしていた。