「ひとつひとつ勝ち期待が大きくなれば(モンスター戦は)おのずと実現」中谷潤人の衝撃157秒“ワンパン”KOの真実と井上尚弥との夢対決を口にした理由
プロボクシングの「LIVE BOXING 9」が20日・両国国技館で行われメインでは3階級制覇王者でWBCバンタム級王者の中谷潤人(26、M.T)が同級1位のビンセント・アストロラビオ(27、フィリピン)を左のボディストレート1発で沈め1回2分37秒にKO勝利した。中谷はWBA世界同級王者の井上拓真(28、大橋)との統一戦を熱望しているが、リング上のインタビューにその先に「ひとつずつ勝っていけばおのずと実現する」とスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)とのドリームマッチを見据えていることを明かした。
「パンチが見えず呼吸が困難になった」
“ネクストモンスター”から“ネクスト”の4文字が消えつつある。
8000人で埋まった満員の両国国技館に衝撃が走った。1ラウンド、わずか157秒。中谷がワンツーのタイミングで左ストレートを顔面ではなく、挑戦者のボディ、しかもみぞおちあたりに突き刺す。するとアストロラビオは、くるっと背中を向き、キャンバスに四つん這いになった。
中谷は「え?」と驚きの表情を浮かべた。
「感触がまったくなくて。柔らかかったんで、これで効くんだ?って感じでした。ただ詰める用意はしていました」
フィリピン人は右手で腹部を抑えて悶絶の表情。カウント8で立ち上がったが、再度、膝をつき、レフェリーが10カウントを数えた。
「パンチが見えなかった。呼吸が困難になった」
アストロラビオの回顧。
その衝撃の157秒には巧妙に考え尽くされた中谷のボクシングが凝縮されていた。消えたボディストレートには理由があった。
中谷は、試合開始のゴング後の最初のパンチは、逆ワンツーから入り、続く一撃は、ガードの上から左ストレートを強打した。
15歳からコンビを組む名トレーナーのルディ・ヘルナンデスから「ファーストコンタクトで強いパンチを思い切り打て」と指令されていた。「2、3発目くらいにいいパンチ当てて、相手がひるんだので意識づけができたと思います」
その左ストレートの威力を知ったアストロラビオは、ガードを高く上げて警戒心を強めた。
中谷は、この指名挑戦者の肉体が計量後のリカバリーで大きくなったと感じたため「この試合が長くかかる」との予想を立てていた。
低く構えて重心を下げ、特に上半身を後ろ重心にシフトしていた。
「注意したのは右ストレートと左フック。瞬発的なパンチを振ってくる。特に1ラウンドは意識していこうという話をしていました。低くく構えたのは、余計なパンチをもらうと(上体が)立っていると効いてしまうが、変なパンチをもらっても重心がしっかりしていれば効かないんです」
わずか157秒の間にそこまでのリスクヘッジをしなががらチャンスをうかがっていたのである。
フィニッシュの左のボディストレートは、右を見せてから、ワンツーと同じタイミングで打った。アストロラビオは両手で高く顔面を覆ってガードしていた。そこで受けるはずのパンチが、ガラ空きとなったボディへ打ち込まれたのだから見えないはず。ボクシングのパンチは、来ると身構えていない状態で受けるとダメージが大きくなる。井上尚弥が5月6日の東京ドーム決戦で、1ラウンドにルイス・ネリ(メキシコ)の左フックで、まさかのダウンを喫したが、あれも死角から飛んできた見えないパンチだったからこそダウンするほど効いたのだ。
「練習でやってきた中での一つのパンチ。ボディは当たるかなと意識していました。いろんなパンチを散らしていく中で、一発目で強いパンチを意識させ、軌道が空いていたのでそこにいいパンチを投げこめた」
これが中谷自身の技術解説。