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パリ五輪体操男子団体で日本が最終種目の鉄棒で大逆転の金メダル(写真・ロイター/アフロ)
パリ五輪体操男子団体で日本が最終種目の鉄棒で大逆転の金メダル(写真・ロイター/アフロ)

パリ五輪体操ニッポン奇跡の逆転金メダルは中国の鉄棒2度落下だけが理由ではなかった…わずか0.532点差は「着地減点の積み重ねの差が生んだ必然」と元オリンピアンが指摘

 パリ五輪男子体操団体決勝が29日、ベルシー・アリーナで行われ、第5種目終了時点で2位だった日本が、最後の鉄棒で奇跡の大逆転を演じてリオ五輪以来、2大会ぶりの金メダルを獲得した。橋本大輝(22、セントラルスポーツ)、萱和磨(27、同)、谷川航(28、同)、杉野正尭(25、徳洲会)、岡慎之助(20、同)の5人で259.594点を獲得し中国をわずか0.532点上回った。

 中国の蘇煒徳がまさかの2度落下

 「絶対にあきらめない」
 萱が叫び続けた日本の選ばれし5人の思いが“奇跡”を呼んだのか。
 団体の最終種目の鉄棒を迎えた時点で1位の中国とは3.267点差をつけられていた。0.702点差で3位にいた米国に抜かれる恐怖こそあれ、中国を抜くことは、ほぼ不可能だった。だが、日本の5人は誰一人としてあきらめていなかった。
 “まさか”が起きる。中国の2人目の蘇煒徳がアドラー1回ひねりをミスした後に離れ技の伸身トカチェフで落下、演技を再開したが、今度もコールマンにも失敗して2度目の落下。2点の減点となり11.600点という低得点に終わったのだ。
 中国の1人目の肖若騰も着地のミスなどで13.433点しか奪えておらず、この時点で日本が、0.699点上回り逆転した。 
 最終演技者はエースの橋本だった。
「みんなに背中を押してもらった。みんなの思いを背負って演技ができて幸せだった」
 橋本は、2種目目のあん馬で落下。一度は金メダルが遠のく原因を作っていた。
 橋本は、F難度のリューキン、E難度のコールマンを次々と成功させ、フィニッシュは、伸身2回宙返り2回ひねり。体が少し揺れたが、見事に着地を決めた。予選では着地で手をつき種目別鉄棒の出場を逃したが、魂がほとばしるような演技だった。
 肩を組んで演技を見守っていた4人は号泣。
 14.566点の高得点をマークした。
 中国のラストはエースの張博恒。予選では鉄棒で15.133点を叩きだしていた。15.266点以上で再逆転される。だが、張博恒は、演技構成を落として挑み、着地でも一歩後ろに乱れた。
 14.733点という得点が電光掲示板に示された瞬間にコーチやスタッフと輪を組んでいた日本の5人の全員が泣いた。
橋本が「みんなに助けられた金メダル。予選でも迷惑をかけた。めちゃくちゃ重い。(東京五輪でロシアに敗れた)0.103点の悔しい思いを持って戦ってきたので重い。やっぱりこれが金メダルなんだな」と涙ぐめば、ムードメーカーとしてハッパをかけ続けた萱は「もう信じられない。夢なのか?と本当に思うくらい。何度もほっぺをつねった。夢が叶った」と感動を伝えた。
 なぜ日本は金メダルを獲得することができたのか。
 アトランタ五輪代表で現在日体大の体操競技部部長の畠田好章氏は「鉄棒を迎えた時に逆転劇が起こりうると思っていました」という。
「昨年のベルギーで行われた世界選手権でも中国の蘇煒徳が鉄棒で2度落下するミスを犯して日本が金メダルを獲得しています。今回は本来出場するはずだった選手の直前の怪我で蘇煒徳が補欠から繰り上がっていました。準備ができていなかったのではないでしょうか。伸身のトカチェフの失敗は『鉄棒の持ち損ね』。持てる位置でしたが、伸身では鉄棒が見えるのが少し遅くなるんです。あまりないことですが、次のミスには明らかに動揺がありました。鉄棒に寄り過ぎたのが原因。失敗した後は、鉄棒に寄りたくなるものですが、その対処ができていませんでした。1回の落下(減点1)だけなら日本は負けていました」

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