パリ五輪体操個人総合金メダリスト岡慎之助の何がどう凄いのか?
パリ五輪体操男子の個人総合決勝が7月31日、ベルシー・アリーナで行われ、初出場の岡慎之助(20、徳洲会)が金メダルを獲得、団体の金に続き“2冠”を達成した。東京五輪の金メダリストで連覇を狙った橋本大輝(22、セントラルスポーツ)は、あん馬の落下が響いて6位に終わった。日本人の個人総合の金メダルは史上6人目でロンドン、リオ五輪で連覇した内村航平氏、橋本に続き4大会連続で日本勢が頂点を守った。岡は平行棒、鉄棒で種目別決勝に出場する。
連覇を狙った橋本はあん馬で落下して6位
その瞬間、岡は橋本と力強く両手を握り合い、観客席に向かって両手を突き上げた。最後の演技者である中国のエース張博恒(24)の鉄棒の得点は、14.633点。先に演技を終え、トップにいた岡は、わずか0.233点、張の合計点を上回った。
橋本の“キング”内村以来となる連覇に注目が集まる中で、金メダルを獲得したのは、20歳の岡だった。
「団体と個人で金メダル獲得を目指して練習をしてきた。その成果が金につながってうれしい。ノーミスでやりきるのが一番の目標でもあった。まずは、そこをやりきれば、おのずと結果がついてくると言われていた。ノーミスで演技ができてよかった」
パリに新しい風を吹かせた岡は爽やかな顔をしていた。
ライバルたちが次々とミスを犯して脱落していく中で岡は1人ノーミスを続けてチャンスを待っていた。
最初の種目のゆかでは、金メダル候補の1人だった張がミスをした。前方3回ひねりから、前方宙返りに続くところで、演技がつながらずに頭を床につけてしまったのだ。大きな減点となり、得点は13.233と伸びなかった。
一方の岡は、伸身ムーンサルト、前方伸身1回ひねりと前方伸身2回半ひねりの連続技でほぼ着地を決めて14.566点の好得点からスタートした。アトランタ五輪代表で現在日体大体操競技部部長の畠田好章氏は、このゆかでの明暗をこう分析した。
「岡のゆかの出来は非常に良かった。1コース目とラストだけ少し動きましたが、ほぼ着地が安定していました。対する張は演技がつながらず頭を床につけてしまいました」
次のあん馬では連覇を狙った橋本が団体戦に続き落下した。倒立姿勢で片腕が前に出てバランスを崩した。得点は12.966点と伸びず、一方の岡は、ここでもノーミスで14.500点をマークした。
「岡はあん馬もいい演技をしました。国内の予選会ではミスがありましたが、五輪に来てから予選、団体とノーミスが続き、自信をつかんだように見えました。橋本は、ゆかの演技を見たときから、動きはいいが、反応がよすぎるのが気になっていました。怪我の影響で準備が不足した状態で五輪に入ったものの1試合、1試合、調子を取り戻していました。連覇への力みではなかったと思いますが、思ったより体が動くことで気持ちと体のバランスに微妙なズレが生まれたのかもしれません。倒立のミスも思ったよりも前にいきすぎてしまったのが原因です」
つり輪では、岡のホンマ十字懸垂が認定されずDスコアが5.9から5.7へ下げられたが、コーチ陣が、審判団に確認を求める「インクワイアリー」を申し出て元に戻るという駆け引きもあった。最後の張との点差が「0.233」だったことを考えると、この「インクワイアリー」の成功は、金メダルにつながる日本チームの隠れたファインプレーだった。
畠田氏は、「おそらくホンマ十字懸垂で、肩が若干上がったことが原因だったのでしょうが、めちゃくちゃ上がっているわけではなかった」との見解を示した。
続く跳馬では岡は、ドリッグスを確実に飛び、着地ではやや腰が落ちたが、14.300点をキープして、得意の平行棒では15.100点をたたき出した。暫定トップに再浮上して最終種目の鉄棒を迎えたのである。
「もうポイントだけを押さえて、後は冷静に中途半端な演技だけはせず大きく(体を)動かして感謝の気持ちを込めた演技ができた」