「あなたの左手は大丈夫か?」パリ五輪卓球女子シングルス準決勝で早田ひなが世界ランク1位の中国女王にストレート負けを喫した理由とは?
試合運びにも、孫穎莎はいっさい隙を見せなかった。
第3ゲームで8-9と追いあげられた直後に、孫穎莎を担当する邱貽可コーチ(39)がタイムアウトを要求している。優位に立っている状況で、1試合で一度だけのタイムアウトを使う。松下氏は「余裕があっても中国はよく取ります」と説明した。
「早めにタイムアウトを取ってでも、取れるゲームは確実に取っていく、という考え方を中国は貫いています。逆転される可能性がちょっとでもあれば、タイムアウトを介してそのゲームをきっちりと取る。そこは以前から徹底していますよね」
60秒間のタイムアウトが明けた第3ゲームは、連続ポイントを奪った孫穎莎が8-11で制した。タイムアウト中のやり取りを、松下氏は、次のように推察した。
「早田選手に対しての戦術を、お互いの会話を介して確認していたはずです。コーチが一方的にしゃべるのではなくて、孫穎莎選手もコーチに対してしっかりと答えて、自分の考えを伝えていた。追い上げられている状況だけれども、慌てずにこういう戦い方をすれば問題ない、といったところを確認していたと思います」
東京五輪で補欠だった早田はパリ五輪の大舞台で最強・中国の選手を倒す自身の姿を目標にすえながら、日本のエースへと上り詰めた。
「今日のために3年間頑張ってきました。もちろん技術が通用した部分もありましたけど、それ以上に自分のプレーを100パーセント発揮できなかったことに対して、いままで自分に関わってくださったみなさん、そしてここまで強くしてくださったみなさんに申し訳ない、という気持ちでいっぱいです」
16度目の挑戦でも孫穎莎に勝てなかった心境をこう語った早田は、3日に待つシン・ユビンとの3位決定戦出場へ、この時点で言える精いっぱいの言葉を残している。
「今日しっかり休んで、明日どれだけプレーできるかはわからないですけど、自分が後悔しないように頑張りたい」
世界ランキング8位のシン・ユビンは1日の準々決勝で、平野美宇(24、木下グループ)とのフルゲームにもつれ込む死闘を制したが、準決勝では東京五輪の金メダリストで、世界ランキング4位の陳夢(30、中国)にストレートで敗れた。
松下氏は銅メダルのゆくえをこう占っている。
「普通に考えれば、早田選手が勝つと見ています。ただ、左手首の状態がちょっと心配です。気持ちは切り替えてくれるはずなので、あとはコンディション次第だと思います」
平野と張本美和(16、木下アカデミー)と組んで、5日のポーランド戦から幕を開ける団体戦のゆくえにも影響を与えそうな3位決定戦は、日本時間の3日午後8時30分から同じ会場のパリ南アリーナで行われる。