「スペインとの決定的なサッカー技術の質の違い」城彰二氏が語る日本代表がパリ五輪で8強の壁を越えられなかった理由
チームの司令塔である藤田譲瑠チマの出来が悪かったことも敗因のひとつ。運動量が少なく中盤で動けていなかった。攻撃参加の機会が少なく、山本がボールを持っても、引き出すようなアクションもなく、歩いている時間が長かった。彼には横浜・Fマリノス時代から注目しているが、時折、こういう悪い癖が出る。4試合目の疲れ、そして暑さ…精神面など、様々な理由が考えられるが、幻のゴールに終わった細谷へ通した縦パスなど、フル代表に食い込む技術と惚れ惚れするようなセンスを持っているだけに残念だった。
私は今大会を通じてフル代表へ名乗りをあげる選手がもっと出てくると思っていた。パラグアイ戦の三戸、マリ戦の大畑歩夢ら日替わりのヒーローは出現したが、フル代表でレギュラーの座を奪いにいくレベルに達している選手はそう多くいなかった。その中でも可能性を感じさせてくれた一人は、キーパーの小久保玲央ブライアンだ。ギリギリ枠内を狙われた直接フリーキックを止めるスーパーセーブもあった。身長があり、ああいった鋭い反応能力を持ち、何より安定感がある。将来性を考えると経験を糧に伸びる選手。
次にあげるなら、センターバックの高井幸大。ミスが少なくチャレンジができて1対1に強い。後半43分にコーナーキックにニアから合わせたヘッドはクロスバーに嫌われたが、それを武器として持つ。冨安クラスまでいける潜在能力を持っていると思う。またミッドフィルダーの山本も、中盤で緩急をつけることができる選手でセンスを感じさせる。まだ線は細いが将来的にフル代表を狙える可能性がある。
一方で、細谷はまだ物足りない。彼は自分のパターンにはまると、ポストプレーから素晴らしい力を発揮するが、“こうだ”と決めたことしかできない不器用なところがありミスも多い。しかもシュートのパターンが圧倒的に少ない。後半36分にペナルティエリアの左からファーサイドを狙ったシュートはスペインのキーパーのビッグセーブに阻まれた。あの角度でファーサイドを狙うのはセオリーだが、キーパーは狙いを読んでそこへ倒れていた。冷静に判断して、ニアにコツンと打つくらいの対応力が欲しかった。フル代表を目指すのであれば、その点が課題だろう。
スペインは強かった。金メダルに最も近いチームだと思う。そのスペインに日本は五輪でメダルを獲得するために必要なものを教えられたと思う。
(文責・城彰二/元日本代表FW)